「秋」
夏が死んだ。鬱陶しいほど鮮明に、その存在を示していたあの夏が、死んだのだ。聞こえる音も、差し込む光も、漂う空気も、感じる香りも、何もかもがお前を忘れてしまったかのように。私もきっと同じだ。お前のことを少しばかり憎たらしく思いながらも、晴れやかな気持ちで見送ろうとしている。
そう考えてみれば、私というものはいささか薄情ではないか。お前と過ごしたあの日々の中では、お前など早くいなくなってしまえと願っていたのに。口にも出していたか。だが、いざ実際にお前が去ってからは、どことなく慈しむような思いすら浮かんでいるのだ。それでいて、まるで、お前との関わりなんてものが初めからなかったかのようにも思っている。そういう人がいたんですか。知りませんでした、と。
こんな私のことを身勝手だとお前は言うだろうか。しかしそんな小言も、今となっては聞く術がない。遠く彼方にお前が行ったから。鮮烈な光を連れて、お前は消えたから。
もっとも、再会の日を待ち望みたくなるほど、お前は遠くに行っちゃいないのだけれど。
9/26/2023, 12:03:41 PM