たくさんの思い出
私と君は正直どの恋人よりも幸せだったと思う。
月2回は必ずお互い行ったことのない場所に訪れては写真を撮ったりくだらない話を沢山して、時間が経つのがあっという間だった。
遊べる日が待ち遠しくてスケジュール帳にも必ず目立つように印を付けてはいつもその部分を眺めていた。
その関係は1年続いたが、別れるのは一瞬だ。
突然彼からの冷たい態度。誘っても断られる日々。
それでも私は未だに好きだ。
別れを思って告げようと覚悟してもたくさんの楽しかった思い出がフラッシュバックしてくる。
たくさん思い出があることは辛いな。こんな気持ちになるなら楽しい思い出なんて忘れてしまいたい。
何時になったらこの気持ちは忘れられるだろうか。
冬になったら。
冬になったら何をしようか。
私は冬になったら毎度冬の海を楽しむという日課がある。 もちろん夏もだけどね。
冬の海は冬の海で良さがある。
雪と海が意外にもマッチするのだ。
静かな場所で海の波の音は心が浄化される感覚があるから大好きだ。
今年も冬の海を見に行こうかな。
はなればなれ
私たち双子はずっとはなればなれだった。
よくある話は一般家庭では双子や兄弟姉妹はお互い協力して親のお手伝いをしたり楽しく過ごすのが普通だ。
でも私たちの親は違う。私の双子の妹とは1度も会ったことがない。いや、あるだろうけどそれは多分私の記憶が無い時だ。パパにも会ったことがない。
ママ曰くパパの方に妹がいるらしい。
1度ママに言ったことがある。
「どうして私は妹と会ったことがないの?」
今まで見たことの無いような顔でこれ以上何も聞くなみたいな顔をしていた。ママのその時の顔は一生忘れないだろう。
だから10年後。私が18歳になったら必ず迎えに行くね。その時まで待っててね。
子猫
ある日突然僕らは惹かれあった。
まるで神様が導いているかのように。
その子は家の前で小さくうずくまっていたのを今でも忘れられない。
初めは迷惑だと思って近付いたがその子の目を見たら胸が締め付けられるような感覚になり、
運命だ───
僕はそう思った。
それから僕は僕の片割れであるかのように毎日一緒に寝たり、映画を見たり、ご飯を食べたり、ごく普通の生活を送っていた。
幸せだ。初めて心から思った。
でも、僕は癌だ。残された時間があと少ししかない。
生きる意味なんてもう無いのにその子ためにどうしても生きたいと思うなんて。ついこないだの早く死にたいと思う僕に言ったら笑われるだろうか。、
そんなこと関係ない。
これは僕の人生だ。僕の片割れのその子、、、いや、ベル。子猫のベルは、僕に生きる理由を与えてくれた。だからせめて僕が死ぬまでにはベルが幸せだと思う生活を僕が作ってあげたい。
ベル、お前は長生きして僕の分まで生きろよ、
そう言った後にゆっくりと僕は目を閉じた。
秋風が吹き始める季節。
首に当たる風が少し肌寒い。
まるで誰かが私を呼んでいるかのように首に巻きついてくる風。
一体そこには誰が居るのだろうか。
肌寒いはずなのに
やっぱりちょっと。暖かい。