唯の虜

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8/21/2023, 12:57:49 PM

【鳥のように】




「ねぇ、今から会いに行っても良い?」

 

貴方からの答えがないのは分かっている



それでも貴方の隣にいたい



貴方はきっと今遠い遠いあの国にいるんだよね



貴方が私に魔法をかけてくれたように、私も貴方に魔法をかけてあげたい



この思いはただの欲なのだろうか








『今君はどこにいるの』



君に会いたいよ



なんで僕は、君に魔法をかけてしまったのだろう 



でも、君には他の人のところに行って欲しいんだ



我儘なのは分かっている



だけど、何にも囚われず、鳥のように飛んでいってくれ



僕の分まで




















8/20/2023, 10:48:56 AM

【さよならを言う前に】




『さよならを言う前に、一つだけ言わせて』




深夜、貴方が私を抱いたあとに淡々と話し始めた



何を言われるのか緊張はしたけれど、貴方が言うことに今まで一度も間違いがなかったから安心できた




『無理やり唇を奪ったこと、意味もないのに好きを言ったこと』



うん、分かった



『適当に連絡して、適当にセックスして、適当に慰めて、適当に好きって言ったこと』 



分かったよ、もう分かったから



『全部全部嘘だったこと』



そうだよね分かってたんだよ



だから分からないフリをした



『でもさ、』





彼が口を開く









『騙された君が悪いんだよ』





『また慰めてあげるよ』




『だからさ、』















『明日も会おう』





あぁ、なんだ





そんなことか













8/20/2023, 6:44:23 AM

【空模様】



『最近雨ばっかだね』

 

「そうだね」



私は雨があまり好きではないけど、君は前に好きって言ってた気がする

 


今バス停にいるのは私と君だけ


わざわざ雨の中、こうして外に出るなんて私と君ぐらい




『そういえば今日バスが遅延してるらしいからもう少しだけ一緒にいてよ』


「何それ。別にいいけど」



あぁ、ずるいよ


これだからまた雨が続けと願うばかり。




8/16/2023, 11:48:47 AM

【誇らしさ】



私には他人に自慢できるような誇らしいことなんてないけど、貴方と出会えたことが唯一の誇らしさなんだよ


「ねぇ、貴方どんな気持ち?」


聞いたって言葉が返ってくるわけないか


そう言って私は、白骨になった貴方に問いかけた

8/15/2023, 11:37:56 AM

【夜の海】




『ここで何してんの、』



私に声をかけてきた貴方 



「別に。何にもしてないけど」


嘘。


気づいて欲しい


 
『ふーん。そっか』



貴方はずっと星を眺めていた



『じゃあ、なんで急に僕から離れていったの』



貴方のキラキラと光る目は、夜の闇のせいか、何も持っていない、私が大嫌いな人間の目をしてた


その目には愛情も、信頼も、全て何処かへ置いてきたんだね


「なんとなくだよ。」 



なんとなくな訳ないじゃない



「それに、私じゃなくて、貴方が最初に離れていったのよ」



波音が心地良い


こんなことになるなら最後くらいキスでも何でもすれば良かった



『そうだった』



『あの時はごめんね』



『もう僕も怒ってないから』



「それなら良かった」



心の底から安心した



これで私も深い眠りにつける



『だからさ、もう夜の星にでもなって、僕を見ててよ』



『そしたら君はもう満足なんだろ?』



満足なわけないじゃない


でも、嘘でもここは満足と言わなきゃ言けないのよね


貴方の為なんだから



「えぇ、満足よ」  



早く新しい人見つけなさいよ



じゃないと、貴方の記憶から私が消されないじゃない




『じゃあ、バイバイだね。』




私は小さく頷いた



私の人生早いものだな、と感じながら




そして私は、君の横顔を眺めながら波に体を委ね、
夜の海となったのでした。







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