秋風は凄腕のエンターテイナーである
自らが吹き抜けることで、様々な風景をコーディネートする
ある時は、夏の終わりと秋の到来を感じさせ、人々を歓喜させる
ある時は、木枯らしを吹かせ、寂しさを演出する
ある時は、紅葉した葉を舞い散らせて、幻想的な光景を演出する
ある時は、寒さを演出し、寒さに震えた恋人たちを寄り添わせる
私も秋風のことを尊敬している
しかし、その秋風にある噂が囁かれる
誰でも秋がもう長くないという話を聞いたことがあるだろう
その秋から、秋風が独立し、夏に移籍するという噂が飛び交ったのだ
私も是非そうであればと思う
だが根も葉もない噂だ
これまでもよく流れた噂
その度に秋風は否定した
「独立するつもりはない」
「私は秋のを切るつもりは無い」
いつも同じことを繰り返す
私はいい加減ウンザリしていた
秋風は悪くないのだが、こうも期待させて裏切られると、文句の一つも言いいたくなってくる
「私、秋風は皆さん常に共もにある」
何度も繰り返された綺麗事に、私の心には秋風が吹き始めていた
今までお元気でしたか
最近急に寒くなりましたね
あなたのような立派な木でも、寒いと感じる事はあるのでしょうか
私は急に寒くなったので、慌てて冬服を出しました
油断していました
なんというか、毎年こんな感じな気もします
なかなか人間というものは学習しない生き物なのかもしれません
毎年あなたが紅葉してから来るのですが、今回この時期にここに来たのは理由があります
実は海外に出張が決まり、今年いっぱいは日本を離れることになりました
あなたが紅葉する様子を見れなくて残念です
日本を出る前に、あなたの見事な紅葉を見たかったのですが、今年は暖かい日が続き準備ができてないようですね
あなたの紅葉があまり進んでいないようなので、少し心配です
急激な温度変化なので、お互い体調を崩さないようにしましょう
健康が一番です
日本にまた帰ってきますが、あなたはその頃眠っていることでしょう
次に会うのは来年の春ですね
たくさんの葉っぱで生い茂っている様子を想像すると、とても楽しみな気持ちになります
また会いましょう
「スリル欠乏症だな、おい治療の準備しろ」
医者は周囲の人間に指示を出す
医者は眼の前にいる、表情のない男に視線を向ける
無気力、無感動はスリル欠乏症の典型的な症状だ
スリル欠乏症とは、人体に欠かせない栄養素であるスリルが足りなくなる病気だ
これを発症すると、人生を無価値と考え始め、自分から何もしなくなる
重症化すると一人では何もできなくなり、自殺者もでる
予防法は常日頃からスリルを味わうこと
しかし、スリルとは危険と隣り合わせだ
人間社会が発展した結果、あらゆる危険が排除され、人類は慢性的なスリル不足になった
特に今年はひどく、連日スリル欠乏症患者が運ばれてくる
治療法は確立されている
スリルを味わえば良い
すなわち絶叫系が最適解
「先生、準備できました」
「よし、逆バンジー、やれ」
医師の指示で男が勢いよく、空へと飛び上がる
男がなにかを叫びながら、もがいているのが見える
「よし患者は正気に戻ったな」
「すぐに降ろしますか」
「いや、見たところ重症だ。もう少しスリルを味わってもらおう」
医者はもがく男を見上げながら確信する
自分はスリル欠乏症にはならないと
なぜなら自分には秘密がある
知られたら破滅する程の秘密があるのだ
その秘密というのは、私が医師免許を持っていないということである
バレるかもしれないというスリルは、この病気に対して良い薬だ
お陰で人生は楽しい
やはりスリルは人生を豊かにする
これだから医者はやめられない
飛ばないのかだと?
当たり前だ
翼だけでは飛ぶことはできん
なに言ってるんだという顔をしてるな
説明してやる
まずはコア、つまり中心部だな
なんでもそうだが、芯が通らないやつはどれだけやっても、何も出来ない
次に翼
ああは言ったが、やはり翼はいる
芯がどどれだけあっても、それだけでは飛べん
空を飛ぶという偉業をなすには、他から助けがいるということだ
3つ目はエネルギー
空を飛ぶというのはいろいろな方法がある
基本は燃料を使って、沈む前に浮ぶやつだ
滑空など風に乗って永遠と飛ぶやつもいるが、どちらにせよ離陸の際はエネルギーを使う
何、たんぽぽの綿毛は風でそのまま風に乗って飛んでいくだと
ばか、あれは飛んでるんじゃなくて、飛ばされてるんだ
4つ目がある程度の重さだ
軽すぎると、さっき言ったように、綿毛みたいに飛ばされちまう
重すぎるとそもそも飛べない
飛ぶ理由も飛ぶやつも
軽すぎず重すぎず、何事も程々が一番
最後は舵取り
飛んだところで行き先が決まらないと話にならない
飛ぶことはできるかもしれんが、飛んでいるだけだ
言いたいことは分かるな
俺達にはお前が必要だ
俺たちはただの飛べない翼だ
でもお前は違う
飛んで行きたいところがあるんだろう
お前にはちゃんと芯があって、
俺達のような翼がいて、
誰かを動かすエネルギーを持っていて、
正しい信念を持っていて、
行きたいところがある
十分だ
俺たちが飛ばしてやる
怖いだと
当然だ
飛ぶというのは、恐怖との戦いだ
そら、お前に向かって風が吹いてきたぞ
お前の進路を阻む逆風だ
だが、飛ぶには逆風が最適だ
さあ、行くぞ
風を受けて今、お前は飛び立つんだ
あるところに立派なススキ畑がありました
それは立派なススキ畑で地域の人々から愛されていました
ある日ここに宇宙人がやって来ました
「なんて素晴らしいススキ畑だ。アートを残していこう」
そう言って彼は立派な大木を残していきました
そう彼は宇宙の迷惑系のアーティストだったのです
しかし地球人には彼のアートは理解できませんでした
突如現れた大きな木に誰もが怖がりました
今では誰も近づきません
ある時、このススキ畑に、とある噂が流れました
噂を聞きつけ、二人の若者がやってきました
彼らはススキ畑をくぐり抜け、木の下に辿り着きます
背の高いススキでしたので、周りはススキだけしか見えません
まるで、世界には少年と少女だけしかいないようでした
少女は真っ赤になりながら言います
「あなたに伝えたいことがあります。えっと、その、あなたのことが―」
そして彼女は噂に従い、来る時に拾ったススキを前に突き出し言いました
「ス、スキ」
こうしてまた一組のカップルが誕生しました
程なくして、ススキ畑は恋愛成就の名所として語り継がれることになったのでした
めでたしめでたし