「スリル欠乏症だな、おい治療の準備しろ」
医者は周囲の人間に指示を出す
医者は眼の前にいる、表情のない男に視線を向ける
無気力、無感動はスリル欠乏症の典型的な症状だ
スリル欠乏症とは、人体に欠かせない栄養素であるスリルが足りなくなる病気だ
これを発症すると、人生を無価値と考え始め、自分から何もしなくなる
重症化すると一人では何もできなくなり、自殺者もでる
予防法は常日頃からスリルを味わうこと
しかし、スリルとは危険と隣り合わせだ
人間社会が発展した結果、あらゆる危険が排除され、人類は慢性的なスリル不足になった
特に今年はひどく、連日スリル欠乏症患者が運ばれてくる
治療法は確立されている
スリルを味わえば良い
すなわち絶叫系が最適解
「先生、準備できました」
「よし、逆バンジー、やれ」
医師の指示で男が勢いよく、空へと飛び上がる
男がなにかを叫びながら、もがいているのが見える
「よし患者は正気に戻ったな」
「すぐに降ろしますか」
「いや、見たところ重症だ。もう少しスリルを味わってもらおう」
医者はもがく男を見上げながら確信する
自分はスリル欠乏症にはならないと
なぜなら自分には秘密がある
知られたら破滅する程の秘密があるのだ
その秘密というのは、私が医師免許を持っていないということである
バレるかもしれないというスリルは、この病気に対して良い薬だ
お陰で人生は楽しい
やはりスリルは人生を豊かにする
これだから医者はやめられない
11/13/2023, 9:37:23 AM