見てごらんよ。ほの暗がりに回転木馬。スポットライトに順繰り飛び込む、着飾った栗毛、葦毛、青毛たち。光は蹄に蹴散らかされて、ぱぁっと芳香と共に散開する。
散らされたイメージをかき集めて、結晶した先にいくつも浮かぶ物語。
落としたビー玉を追いかける少女の後ろ姿。玉は石ころだらけの坂道を曲がり、急な階段を転げ落ち、暗い夜道の側溝をゆく。
立ち止った少女はそこに猫の目のような間隙を見つけ、覗いた拍子に狭間は観音開き、どぅっと男たちがまろび出てくるのだ。唐突に世界を覆うサイレン。火の粉。怒号。見開いた少女の目にうつる、ビー玉の行方。
それから、あれは、陶器じみた白い太腿に淫蕩な夢を見る青年の後れ髪。濡れそぼったうなじがひどく青白い。シャツを着たまま浴びたシャワーは冷たく、浴槽の底はどこまでもどこまでも沈没していく。
いつしか陶器は彼の視界いっぱいに拡がり、溶けて間延びし粘土質へと変容する。埋められる夢、うずめられる陶酔。破裂しそうな肺の奥底で、それでも芳香は飛んでいる。
白いもう一頭が私の鼻をかすめた時、時計がボーンボーンと時を告げた。巨大な柱時計の振り子は私を殴らんばかりに轟いて宙をいく。大きく振りかぶってその終わりが見えないほどに高みまで上り詰め、上り詰め、上り詰め。
時間は間延びして私たちは動きを止め、終わらない振り子は殴打する相手を探す。
さぁ見てごらんよ。終わらせたがりの貴方に教えてあげる。
つかみたいものが何だったのか言ってみて。
木馬は永遠を夢見た鎖。
あなたの秘密を教えてくれよ。
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【2】終わらせないで
あなたがその花を好きなだけならそれを引き抜く。だが、もしあなたがその花を愛しているなら、抜かずに水をやる。
というような話をブッダだかソクラテスだかがしたらしい。(でも実はどちらでもないらしい)
抜いてでも手元においておきたいと思うのは何でだろう。焦点あわせて見ているところが自分の心だけだからか。
植物に関する愛の話で好きなものもう一つ。星の王子さま。
わがままだけどとても愛して世話をやいていたバラの花。それを残して他の星に来た王子さまは言う。
夜空の星々がきれいなのは、あの中の何処かに自分のバラがあるからだ。
愛して手をかけてきたけど、仲違いして遠いところまで離れてしまったバラの花。
摘んではいけない愛の花。
愛と同じ顔をした、ふたつの恋のお話。
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【1】愛情