【日差し】
初めて空腹を感じた。
生まれたときから食べ物に困った事が無かった。
だが、ここ2日間、食料探索組が帰ってこない。
空腹に耐えかねた増築工事課の私は
総監督に相談し食料探索への許可を貰い
数ヶ月ぶりの地上へ出た。
あぁ。いい天気だ。
普段暗闇で暮らす私には眩し過ぎるほどの日差しだった。身体の芯の奥底から力が湧き出る様な感覚だった。
一瞬、日差しが遮られ、
急に、痛くて、重くて、潰れていく。
もう死ぬのが分かった。
圧倒的な、殺意と、重力。
遠のく意識の中
ありんこ!ありんこ!
謎の叫び声が聞こえた。
残り数秒の命で、なぜ死ななければいけないか、考えてみよう。
【入道雲】
青や黄や緑の夏に
個々の道をゆく2人は
入道雲と青空の境目の様に
色のない別れを惜しんでいた
【日常】
私の日常を知る全ての人の眼球が
私を嫌悪し、背き、見なかった事にしてる。
そんな世界だと仮定した場合、
ただ二つだけ、誇らしげに見開き目を離さずにいてくれるその眼球が、
母の眼球だとしたら
私の人生は成功と言えるのだろう。
【あなたがいたから】
飲みすぎた
あなたがいたから
明らかな下心と
微かな期待
スルスルと
意思が有り、動く糸の様に
あなたは遠ざかる
嫌われた訳ではないと
自身をなだめるように
一人酒を浴び涙した
【落下】
信じ難い事に、
私は上空にて誕生した。
その後はただ落下していくのみ。
身体の向きを変えながら。
落下する事や地面が近づく事に恐怖は無かった。
それで死ぬ事は無いと本能的理解があったからだ。
着地後、仲間が次々降ってくる。
隣に着地した彼とは仲良くなれそうだ。
私の頭上に着地した女の子は、真四角だった。
仲間達でこの世界の隅から隅まで埋まった時
私の半分が消え、隣の彼も半分消えた。
間もなくして私は、おそらく隣の彼もだろう
その全てを失った。
何故私達は生まれ、消えたのか。
理解する前に生涯を終えた。
異世界からこちらを眺め
どうやら意図的に私達を消した生物は
この無慈悲な世界を
テトリスと呼んだ。