お題『これで最後』
お弁当をつめた。
冷食の唐揚げ、かぼちゃコロッケ。だしが少し入った卵焼き。ブロッコリーとほうれん草のおひたし、プチトマト。好きだと言っていたから、小さくオムライスを作った。
きっと、これであの子に作るお弁当は最後。
毎朝大変だった。早起きが嫌だと思ったこともある。面倒臭く思うことも、自分で作れとも思った事がある。
でも、結局作ってしまう。習慣化したからというのが正しいだろう。
明日から楽になる。
少し遅く起きてもいい。朝ごはんは勝手に食べられるから。
それにしても、大きくなったものだ。身長がすっかり伸びて、大人に近付いている。中身はまだまだ幼い頃からのあどけなさが残るように思うが、実態はと言うと、それがあの子の性格なのだろう。
しみじみしてしまう。
「…おはよ。」
「ああ、おはよう。お弁当、よろしく。」
「うん。ありがと。」
ふ、と笑った顔は、昔から見てきた笑顔そのままで。
「行ってらっしゃい。」
なんて、笑いかけた。
お題『君の名前を呼んだ日』
はじめましてをした時、僕は君の名前を知らなかった。知らなかったけど、話しかけてしまった。
何故か、酷く君を知りたくなった。
「外、寒かったですか?」
変な人だと思われたかな。
話しかけ方、怖かったかな。
少し驚いたような君の顔にどぎまぎする。
話しかけ過ぎたら怖がられちゃうかな。
そう思って、話したい衝動を抑えた。まるで、それは恋のような緊張。
君の一挙手一投足、冷や汗が出る。
指先が動くだけで、はっと息を飲む。
「ちょー寒かったっすよ!」
白い歯を見せて快活にわはは、と笑う。やっと君の世界に入ることを許された気がして、息をついた。
「もう震えちゃって!紐引っ張ると震えるキーホルダーみたいなやつ。あんな感じです。」
「かなり震えましたね」
ふ、と僕が笑うと、君もなんだか、寒いはずなのにほっと頬を緩めて笑った。
「自販機とかであったかい飲み物、買えば良かった〜。ケチっちゃって。」
「何か、欲しいものでもあるんですか?」
「好きなアーティストの限定アルバム……。現物が欲しいんすよね」
「あ、ちょっと分かる。僕も、小説は紙派。」
「わかります!!いつでもそこにあるのがいいんですよねっ」
食いつくようにずいっと僕に顔を近づけて笑った。それから、はっと気付いたように君が「あ」と言う。
「やべ、行かないと。また後で!」
君は明るく手を振って、席を立った。
「名前、聞くの忘れた。」
明日、君に会えたら、名前を聞く。
きっと浮き足立ってしまうような、素敵な君にぴったりの名前を、明日呼びたい。
お題『やさしい雨音』
良くないことがあった時、雨が降ると嬉しい。
私の代わりに空が泣くような気がしてしまう。
私の心に共感して、わあわあ、ぐすぐす、泣いてくれるような。
愛おしい、雨の音。
お題『歌』
私は歌を歌うのが好きだ。
下手なりに、伝えたい思いがある。下手なりに、声に出したい音がある。言葉がある。
ららら、
るるる
自分だけの声で、伝えたいことがある。
お題『そっと包み込んで』
寂しそうな背中を見たら、毛布を持ってくる。そして、えい。と君の背中に抱きついて、毛布でそっと包み込んであげる。
もう寝ちゃいなよ、なんて唆しながら。