お題『君の名前を呼んだ日』
はじめましてをした時、僕は君の名前を知らなかった。知らなかったけど、話しかけてしまった。
何故か、酷く君を知りたくなった。
「外、寒かったですか?」
変な人だと思われたかな。
話しかけ方、怖かったかな。
少し驚いたような君の顔にどぎまぎする。
話しかけ過ぎたら怖がられちゃうかな。
そう思って、話したい衝動を抑えた。まるで、それは恋のような緊張。
君の一挙手一投足、冷や汗が出る。
指先が動くだけで、はっと息を飲む。
「ちょー寒かったっすよ!」
白い歯を見せて快活にわはは、と笑う。やっと君の世界に入ることを許された気がして、息をついた。
「もう震えちゃって!紐引っ張ると震えるキーホルダーみたいなやつ。あんな感じです。」
「かなり震えましたね」
ふ、と僕が笑うと、君もなんだか、寒いはずなのにほっと頬を緩めて笑った。
「自販機とかであったかい飲み物、買えば良かった〜。ケチっちゃって。」
「何か、欲しいものでもあるんですか?」
「好きなアーティストの限定アルバム……。現物が欲しいんすよね」
「あ、ちょっと分かる。僕も、小説は紙派。」
「わかります!!いつでもそこにあるのがいいんですよねっ」
食いつくようにずいっと僕に顔を近づけて笑った。それから、はっと気付いたように君が「あ」と言う。
「やべ、行かないと。また後で!」
君は明るく手を振って、席を立った。
「名前、聞くの忘れた。」
明日、君に会えたら、名前を聞く。
きっと浮き足立ってしまうような、素敵な君にぴったりの名前を、明日呼びたい。
5/26/2025, 11:30:28 AM