桜散る
桜咲く頃に酒を酌み交わすのが恒例のA氏とB氏。
桜の美しさについて議論する。
美しいから散る、というA氏と、
散るからこそ美しい、というB氏。
答えなど出ず、両氏とも酔いつぶれて終わるのだが、
ある年、二人は酔った勢いでいっそ桜に聞いてみることにした。
桜は当然答えない。
その夜、二人は同じ夢を見た。
桜が二人に語りかけたという。
ただ一言、
「飲み過ぎ。」
遠くの空へ
手紙を書いている。
前略
何度貴方に救われたことか。
来る日も来る日も、しっかりと自分に向き合い、
試合に出れても出れなくても準備は怠らない。
愛するチームのために今日も貴方は戦っている。
平凡なようで実は私達も社会の中で日々戦っていて、時に疲れきってしまうのです。
日常と非日常。
野球と私の仕事は全く関係がありません。
それでも貴方の打球が空高く舞い上がり、アーチを描くとき、
理由もなく頑張れそうな気になります。
ありがとう。
お体御自愛ください。
ご活躍お祈りいたします。
読み返して、投函するのはやめた。
ガラにもない。
明日も頑張れそうだ。
言葉にできない
少年期にいわれのない差別があることを知った。
周囲の人々は心の中ではこんな風に自分たちを見ていたのか。
怒りや悲しみが入り混じった感情が芽生え、他人を見る目は変わった。
高校で知り合った友人は私の過去は知らない。
ある時私の幼馴染から私のことを詳しく聞かされたらしい。
よくあることだ。
何か言いたそうな顔をした友人に、
「そういうことだよ」
と一言だけ言った。
彼は頭を掻きながら、
「どうでもいいわ。それより腹減った。飯食いにいこうぜ」
と肩を叩いた。
喜びや安堵、いろんな言葉か浮かんだが違う気もする
言葉にできない感情を抱きながら私は、
「おう」
とだけ答えた。
これからも、ずっと
何をやってもうまくいかない男がいた。
これからも、ずっとこうなのか。
ある時一人の女と出会う。
よく笑い、とても優しい人だ。
これからも、ずっと一緒にいたい。
男には誇るものは何もなかったが、とにかく女を笑わせた。
何度か苦難が訪れたが今でも二人は一緒にいる。
うまくいかないことがあっても、二人ならなんとかなるのだろう。
これからも、ずっと。
男は自分にそう言い聞かせるように酒を飲む。