落ちる。
どこまでも。
いつまでも。
底がない。
穴か。
崖か。
空か。
とにかく落ちる。
深い。
広い。
スピードが上がる。
落ちて。
どこまでも落ちて。
燃えて。
消える。
「ちょっと一週間後行ってきゅうり収穫してくるわ~」
「お、まってまって、昨日五日後にスコップ置いてきてしもたで、ついでに取ってきてくれん?」
「了解!でもまだあるかな~」
「同じスコップ二個あったら、過去の奴が置いてったかーと思ってそのままにしとくやろー」
「せやな、未来の私も所詮私やでな、そうするやろな」
「しかし一週間後には君は豹変しているかもしれないよ」
「なんと!もしかしたら私たち一緒にいなかったりして!」
「一寸先は闇さ、未来のことなんてわからないよ、きゅうりがなっているかどうかだって、行ってみないとわからない」
「そうね……さて、冗談はさておき、きゅうりはまだ小さいからナスを収穫してくるね」
「はーい、今日のごはんは??」
「麻婆茄子~」
「いいね!」
1年前だ。
ちょうどである。
ちょうど1年前。
まったく同じ日。
1年と1日前とか、
364日前とかでもない。
ちょうど1年前なのだ。
2023年6月16日は
ちょうど1年前のことなのだ。
好きな本は、化け物が人をバクバク食べるような、グロい描写のある本だ。
化け物と化け物が、人を取り合って、人がちぎれる。
大きな化け物が人をバクッとひと飲みにする。
小さな化け物が人を少しずつ、ついばむ。
人にフォーカスをあてたら、ひとりひとりドラマがあって、悩んだり笑ったりしていて、家族がいて、友だちがいて、人ひとりが死ぬだけで、多くの人が涙するのに。
化け物はバクバクと人を食べていく。
男だか女だか、わからないうちにどんどん食べていく。
ドラマも涙も笑顔もひと塊になって、あっという間に化け物の腹におさまる。
なんと痛快。
私のこともひと飲みにしてくれ。
ドラマも涙も笑顔も、もういらない。
「明日英語テストやん~」
「げぇっ忘れとった、こんなとこでガリガリ君食っとる場合かよ!範囲どこや!」
「あいまいみーまいんとかなんとかの~、しーはーはーとか?ひーひず?ひーひー?ひーひーふー?わからぁん」
「もうやばいやん、あいまいみーまいんとひーひーふーしか分からん」
「あいまいなあいまいみー」
「あいまいなあまなっとう~」
「あまいなぁあまなっとう~」
「あまあまあまおういちご~」
あいまいな空の下、あいまいな英語の勉強、あいまいなラマーズ法、あいまいなラップを口ずさんで、ガリガリ君食べたあのときがいつだったか、今ではもうあいまいになってしまった。僕は明日37歳になる。