「さむっ」
羽織っていた毛布を、引き寄せた。
流星群、あんまり見えなかったな。
いっぱい流れるのを、期待してたんだけどな。
たくさお願いしたいこと
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真夜中
「木村さーん、生まれましたよー」
助産師さんが告げた。
「おめでとうございます。女の子です」
ちっちゃなお顔を見せてくれた。
「ありがとうございます」
自然に涙が溢れた。
「今、綺麗にしてきますね」
疲れと安堵が押し寄せる。
「ママですよー」
胸の上に乗せられた、娘の小さな身体。
軽いけど、重い。
小さいけど、大きい。
ママがんばるね。
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愛があれば何でも出来る?
「どうぜ、あんたなんかには無理だから。やめなさい」
習いたかった、ピアノを諦めた。
「どうせ、あんたに続くわけがないでしょ」
アルバイトしてみたかったけど、諦めた。
「一人暮らしなんて、無理ムリ」
東京の大学に行きたかったけど、諦めた。
25歳。
「どうせ、無理」
そんな言葉で、私を閉じ込めてきた家を飛び出した。
もっと早くに、あんな家捨てればよかった。
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後悔
ガッカリして、風呂場に向かった。
「ちょっと、何してるの! びしょびしょになって」
母の目が見開かれた。
「ベランダに居たから」
「はー?! なんでこんな台風の日に、ベランダなんか出るの? 危ないじゃない! ここ何階だと思ってるの!」
「18階」
濡れた服と、室内の冷房は、容赦なく体温を奪っていく。
早く風呂に入りたい。
「そうよ。死にたいの? 万が一、落ちたらどうするのよ! もう高校生なら、それくらいわかるでしょ」
風呂場に向かう俺を、母の言葉が追ってくる。
「うっせーなー」
扉を閉めて、母からの追撃を阻止した。
台風の中なら、飛べるんじゃないかと思ったんだよ。
力強い風に身をまかせることができたら、何か変わるんじゃないかって。
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風に身をまかせ
白。
天井も、壁も、シーツも。
女の子の身体になった実感は、まだない。
これから、まだ慣れていかないといけないこと、ケアもある。
「おめでとう、美希」
今日は、もう一つの誕生日だね。
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失われた時間