煙花三月

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2/17/2025, 5:25:49 PM

雪道の傍らに落としたパールのピアスを探すのに、思いのほか時間を要した。
母から受け継いだそれは、わたしが持つアクセサリーの中で一番の輝きを持っているはずだったが、降り積もった雪の中に落としてしまえば見分けがつかなかった。
それは雪が深かったからではなく、街灯に照らされた雪もまたパールと同じくらいにきらめいていたからだった。

2/4/2025, 4:16:38 PM

ルノワールの「春の花束」のポストカードを入れた金色の額縁が、冬の強い夕日を反射させて室内に広げていた。その光景は、ルノワールを愛していたあの人のことをわたしに思い出させた。
なんとなく暖炉に追加した薪は湿気を帯びていたようで、パチパチと音を立てて日の沈みとともに次第に火力を失っていった。

2/4/2025, 6:21:53 AM

憂鬱な心を紛らわすために、わたしの心より暗くて寒い冬の海を見に行った。

冷たくて強い潮風が、わたしの頬にぶつかった。
テトラポットに打ち付ける黒い荒波は、わたしの心を一層深く抉るようだった。
でも、それが心地良かった。
わたしの憂鬱な心は、乱暴な冬の海によってどこかへと掻き消されていったのだった。

5/27/2024, 2:33:28 PM

真昼の小学校の前を通った時、どうやら徒競走の練習をしていたようで、あの音楽が聞こえてきた。
笛が鳴る。日傘越しの、そのまたフェンス越しに、数多の紅白帽たちが一箇所に集まるのが見えた。目がチカチカして、思わず目を逸らし歩を進めた。
いや、本当のところ、勝ったら天国、負けたら地獄、そんな無邪気さが集まった光景があまりにも眩しくて、思わず目を逸らしたかっただけなのかもしれなかった。

4/19/2024, 2:09:06 AM

雨天の夜は空を見上げても暗闇があるばかりで、月も星も無くて、目に映る色も何も無い。
残念に思って下を向くと、街灯のあかりが濡れたアスファルトに反射して、アスファルトの上に真っ白な天の川を作っていた。車が通ったとき、アスファルトに反射したブレーキランプは赤い流れ星のようだった。
ボタボタと傘に落ちる雨音を聴きながら、この夜が続いても良い、と思った。

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