命が燃え尽きるまで
⚠️死亡表現あり⚠️
今日も人間界に降りる。
そっとビルの屋上に腰掛け、リストを確認する。
「今日は誰かなぁ?」
ペラっとページを捲る。
「へぇ…この人ねぇ…若いのになぁ…勿体無いね。」
リストを閉じた瞬間、下の方で沢山の悲鳴が聞こえた。下では耳が痛くなるほどの騒音や悲鳴。
私はビルの屋上から飛び降りる。
音も立てずに降りて、現場確認。
ほとんどの人は私を視る事はで出来ないが、たまに私の事が見える奴がいる。私は現場確認を終えて、魂だけが出ているモノを探す。
「おっ!いたいた。」
私は魂だけになったモノの腕を掴んで、連れて行こうと開いた瞬間、後ろから声をかけられた。
「…あの…憐さんを何処に連れていくんですか…」
声をかけてきたのは、か弱そうな男性。
一見女に見間違えそうになる。
私の事が視えるのか…たまにいるんだよなぁ。事故に遭遇した人が衝撃で、一時的に視えるようになるって。私が一人で納得していると、男性は泣きそうな声で、言葉を紡ぐ。
「…連れて行かないで。俺の事を認めてくれた…唯一の人なのに…好きだったのに…。」
その場に泣き崩れる男性を見て、私はなんともいえなくなってしまった。
『同性愛が嫌だ』とかではなくて、此方も仕事をしているだけだ。私だって本当はしたくない仕事だ。
だが、《死神》として生まれてきてしまったものだから、私にどうこう言っても変わらない。
私は一旦それを置いておき、男性に近づき優しく話しかける。
「すみませんねぇ…私だって本当は戻してあげたいのですが…今日のリストに載っていない人がね?本来なら連れていくのは、貴方だったはずなんですよ。」
私がそう言うと、男性は声を荒げて言う。
「だったら!憐さんじゃなくて…俺を連れてけよ!
なんで憐さんなの…。」
私が対処に困っていると、憐さんだったモノがそっと男性の頭を撫でる。
『ごめん。僕…湊が危ないって思ったら。別に僕が勝手にやった事。湊は自分を責めないで?僕は向こうで待ってるから、《命が燃え尽きるまで》生きて。』
そのモノはそっと男性から離れると、私の袖を引っ張り、『にこり』と微笑む。
「…もういいんですか?」
私がそう尋ねると、それはコクリと頷く。
私は未知の空間を開く。開かれた空間は光に暖かい光に満ちた場所だった。憐は振り返り、男性に手を振り空間に入る。入った瞬間空間は元に戻り、何事もなかったかのように日常に戻る。
男性はただ単にその場に泣くしかなかった。
『今までありがとう』
そう聞こえたらしい。
《誤》
蒼 憐 アオイ レン 20歳
死亡時刻 20XX年 XX時 XX分
死亡理由 事故死
《失》
茶川 湊 チャキ ミナト 25歳
死亡時刻 20XX年 XX時 XX分
死亡理由 事故死
『茶川 湊』は想い人に助けらた。
代わりに『蒼 憐』が死亡。
急『茶川 湊』の対処を。
私はリストにそう書き加えた。
胸の鼓動
今日も『ドクッドクッ』っと胸の鼓動が聞こえる。
人の生命の源。
鼓動が続く限り、人は生き続けるだろう。
私も彼も鼓動が続く限りなんだろう。
私はそう思いながら、ベットで眠る彼の頬を撫でる。
彼は病気で植物状態。
私は毎日彼に会いに病院に行く。
起きないと分かっていても…。
今日も彼に会いに行く。
分かっていながらも…。
不完全な僕
誰からも愛されない。
いや…そもそも愛し方を知らない。
親から“愛情”と言うもの以外は受け取った。
親曰く、『愛なんて知っても、貴方は育たない。』
そう言われ続けてきた。
幸い、学力等には問題はなかった。
だから僕は“不完全”なんだ。
私の日記帳
紙の上を滑るペンの音が、部屋に響く。
今日も一日を締める為に、今日の出来事を綴る。
書き終えて、そっと閉じる。
明日こそはいい日になるといいな…。
君の奏でる音楽
今日も何処かから音楽が聞こえる。
「はぁ…。書類が終わらない…。」
そう嘆いていると、同じく生徒会の書類を捌いている副会長が、目を通しながら文句を言う。
「終わらないのは、どっかの誰かさんがサボるからでしょ?サボらなきゃ終わってます。」
本当の事を言われ何も言えずにいると、何処からか優しい音楽が聞こえてきた。
「なぁ…赤羽?いつも聞こえる音楽は、誰がやってるんだ?」俺が書類にサインしながら聞くと、赤羽は作業の手を止めて答える。
「多分…彼奴ですよ。一年の【狐火】。楽器が得意らしいっすよ。」赤羽は言い終わると、また書類を捌き始めた。何故此奴が詳しく知っているのか考えていると、赤羽は溜息をつき、「一旦休憩しましょう。休憩がてら言いますよ。」俺はその言葉に目を輝かせた。
休憩しながら赤羽の話を聞く。
「俺もそこまでじゃないっすよ。噂程度の話です。
一年の狐火がやってるって噂。彼奴には欠点があるらしくて、その欠点は【目が見えない】。目が見えないながらも、幼少期から色々な楽器をやってきたから、あそこまで出来るようになったらしい。」
そう言って赤羽は紅茶を一口飲む。
俺はその狐火という奴が気になって、赤羽に居場所を聞いた。
「えぇ…ガチで行くんですか?まぁ放課後音楽室にいるらしいっすよ。あ…水木金曜日だけっすけど。月火曜日は、休む日と検診の日らしいっすよ。」
俺は残りの紅茶を飲み干すと、赤羽にバレないように生徒会室を出た。
「……。本当に物好きな会長だなぁ…。」
俺は会長の残した書類に手をつけた。
音楽室に近づくにつれ、音楽が鮮明に聞こえ始めた。
俺はそっと音楽室の扉を開けた。
中に入ると、ピアノを弾いている女子生徒がいた。
女子生徒の目線は虚空を見つめていたが、手は確実に音を捉えて奏でている。
俺は音を立てないようその辺の椅子に腰掛けて、彼女が奏でる音楽に聴き入った。
彼女が奏でる音楽は、優しくとも消え入るようなものだ。
彼女が弾き終えると、俺は拍手してしまった。
驚いた彼女は周りを見渡していた。
俺は足音を立てて彼女に近づいた。
彼女は驚いたが、俺がそっと触ると俺の手に触れてきた。
「あの…いつから聞いていたんですか…?」
彼女の焦点は合っていなかったが、俺は気にせず彼女に答える。
「途中から。生徒会室にまで聞こえてきたから、気になってな。」
俺が答えると、彼女は申し訳なさそうに言う。
「すみません…。うるさかったですか…?」
俺は慌てて否定する。
「そんな事ないぞ!むしろ…綺麗だった。」
彼女は恥ずかしそうにしていたが、またピアノを弾き始める。俺は彼女の隣に座り一緒に弾く。
今日も彼女と一緒にピアノを弾く。
狐火はいつの間にか俺の恋人になった。
俺の幸せと彼女の幸せは、ピアノの旋律に乗って奏でられる。