君の奏でる音楽
今日も何処かから音楽が聞こえる。
「はぁ…。書類が終わらない…。」
そう嘆いていると、同じく生徒会の書類を捌いている副会長が、目を通しながら文句を言う。
「終わらないのは、どっかの誰かさんがサボるからでしょ?サボらなきゃ終わってます。」
本当の事を言われ何も言えずにいると、何処からか優しい音楽が聞こえてきた。
「なぁ…赤羽?いつも聞こえる音楽は、誰がやってるんだ?」俺が書類にサインしながら聞くと、赤羽は作業の手を止めて答える。
「多分…彼奴ですよ。一年の【狐火】。楽器が得意らしいっすよ。」赤羽は言い終わると、また書類を捌き始めた。何故此奴が詳しく知っているのか考えていると、赤羽は溜息をつき、「一旦休憩しましょう。休憩がてら言いますよ。」俺はその言葉に目を輝かせた。
休憩しながら赤羽の話を聞く。
「俺もそこまでじゃないっすよ。噂程度の話です。
一年の狐火がやってるって噂。彼奴には欠点があるらしくて、その欠点は【目が見えない】。目が見えないながらも、幼少期から色々な楽器をやってきたから、あそこまで出来るようになったらしい。」
そう言って赤羽は紅茶を一口飲む。
俺はその狐火という奴が気になって、赤羽に居場所を聞いた。
「えぇ…ガチで行くんですか?まぁ放課後音楽室にいるらしいっすよ。あ…水木金曜日だけっすけど。月火曜日は、休む日と検診の日らしいっすよ。」
俺は残りの紅茶を飲み干すと、赤羽にバレないように生徒会室を出た。
「……。本当に物好きな会長だなぁ…。」
俺は会長の残した書類に手をつけた。
音楽室に近づくにつれ、音楽が鮮明に聞こえ始めた。
俺はそっと音楽室の扉を開けた。
中に入ると、ピアノを弾いている女子生徒がいた。
女子生徒の目線は虚空を見つめていたが、手は確実に音を捉えて奏でている。
俺は音を立てないようその辺の椅子に腰掛けて、彼女が奏でる音楽に聴き入った。
彼女が奏でる音楽は、優しくとも消え入るようなものだ。
彼女が弾き終えると、俺は拍手してしまった。
驚いた彼女は周りを見渡していた。
俺は足音を立てて彼女に近づいた。
彼女は驚いたが、俺がそっと触ると俺の手に触れてきた。
「あの…いつから聞いていたんですか…?」
彼女の焦点は合っていなかったが、俺は気にせず彼女に答える。
「途中から。生徒会室にまで聞こえてきたから、気になってな。」
俺が答えると、彼女は申し訳なさそうに言う。
「すみません…。うるさかったですか…?」
俺は慌てて否定する。
「そんな事ないぞ!むしろ…綺麗だった。」
彼女は恥ずかしそうにしていたが、またピアノを弾き始める。俺は彼女の隣に座り一緒に弾く。
今日も彼女と一緒にピアノを弾く。
狐火はいつの間にか俺の恋人になった。
俺の幸せと彼女の幸せは、ピアノの旋律に乗って奏でられる。
8/12/2024, 1:34:10 PM