化け物なんかいない世界で君とワルツを踊りたい
そんな、理想郷の話。
あいつが目の前で死んでから数週間経った。否、本当は、数日しか経っていないのかもしれへんが。
如何せん、焦燥感が凄いから日数なんて覚えてられへん。
ふと隣を見たら、あいつがいる気がして、あの温もりが、懐かしく、寂しく感じる。
何処に行くにも着いてきてくれたあいつ。 任務でも、一緒に出かけている時でも、どんな時でも、「大好き」と言ってくれるあいつが、もう見れないなんて、一生考えられん。
目を瞑ると流れてくるのは、懐かしい思い出だった。
パッと目を開くと、暗がりの中に居た。
死んだのか。 しんじゃったんだ、私。
最期になんて言ったかは、思い出せなかった。
報われるなんて思ってもなかった。
でもやっぱり、1度でいいから、貴方に好きだと、愛してると、言われて見たかった。
「___あいしてる!」
ふとした時に思い出すのは、お前とよく行った喫茶店の事や。
お前は紅茶の匂い苦手だからって、苦いからって、何時もミルクティーを飲む。
彼処の紅茶、美味いんにな。
あのフラワリーな匂いも独特のコクも、美味いんにな。
─────ふと、目の前のお前が紅く染まっていくのを見た時、そんなことを思い出した。
「___は?」
紅く、紅黒く染まって行く手は、冷たい。
俺は、1回でもこいつに好きだと、大好きだと、愛してると、伝えたことはあったんやろか。
血飛沫が飛ぶ。 誰の? 誰の血?
─────これは私の血だ。
そう、理解するまで数十秒かかった。
私、ここで死ぬのか。
脳に流れるのは君との日々。
結局、邪険に扱われて、終わりだったなぁ。
それでも、ほんとうに、だいすきなの。
ああ。これはなんて都合のいい夢。 君の顔が、大好きで仕方の無い、貴方の顔が!
死ぬ間際に見れるなんて!
夢だろうと何でも良かった。
私は最期に一言。
「─────あいしてる!」
そう言って、瞳を閉じた。