春爛漫
三寒四温の言葉通り
温かさと寒さが交互に顔を出し
ようやく桜が満開に咲き誇り
まさに春爛漫といったところだ
それにしても今年の春は奇妙に感じる
暖冬の影響なのか、桜の開花はかなりずれ込んだ
それに雪が降ったかと思えば、
夏日を記録するような暑い日もあった
地球温暖化の影響で
日本から四季が無くなるとも推測されているが
これらの気温の兆候は
春が消えつつある兆しなのかもしれない
誰よりも、ずっと
人々を驚嘆させるような人達は
誰よりも、ずっと努力している
努力しているから輝けるのだと
強く自分に言ってやりたい
これからも、ずっと
―――これからも、ずっと一緒にいよう
恋に落ちるこの気持ちは本物だ
彼と一緒に居れると思うと幸せに溢れる
いつまでもこの時間が続けば良いのにと
叶わぬ願いに思いを馳せる
私と彼らとは異なる時間を生きる
何十年、何百年と生きてきた
悠久の歴史の中で何人もの人と出会い
やがて別れを経験した
彼らは老いてく一方で私の容姿は変わらない
誰もが通過する道程でいつもひとり取り残される
ずっとなんてあり得ない
存在するのは一方的なお別れだけだ
永遠なんて誰が望んだ
永遠は孤独だ
沈む夕日
夜道は危ないからひとりで歩いてはダメよと
口うるさいくらいにお母さんにいつも言われていた
女の子がひとりで出歩くのは世間一般的にもちろん危険なのだが
こちらでは別方向の危険の意味も含まれていた
その日は大切にしていたキーホルダーをどこかに落としてしまい
時間を忘れるほど夢中になってひとりで捜し回っていた
失くしてしまった悲しさと不安で涙が込み上げた
沈む夕日
辺りは徐々に闇夜に包まれていった
・・・?
ふと何かしらの気配を感じて後ろを振り返る
―――・・・
人らしき立ち姿が見えた
暗いのと涙で滲んで顔は見えなかったが
かなりの長身だった
―――見ぃつけたぁ・・・
低く呻くようなくぐもった声が聞こえた
何を言ったのか咄嗟には理解できなかった
ただ次の瞬間、人ならざるものの速さであっという間に詰め寄ってきた
不安が一気に恐怖となり身体が強ばる
―――ぁそぅぼう・・・
耳元ではっきりと聞こえたその声と
暗闇の中で浮かび上がった2つの赤い眼を見た瞬間に
私の意識は飛んだ
意識が戻ったのはお母さんに声を掛けられた時だった
遅くなっても帰ってこない私を心配して捜しに来てくれた
家の意外とすぐ近くの所で放心状態で立っている私を見つけたらしい
ふと右手の中に違和感を覚えた
見るとそこには失くしていたキーホルダーがあった
不思議な感じと恐怖心とが入り交じって何がなんだか分からなかった
あれはキーホルダーを届けてくれた妖精さん?
・・・あんな恐ろしい妖精さんあってたまるか
自分で自分に突っ込みを入れつつ
大切なものはもう失くさないと強く誓った
君の目を見つめると
何だか視線を感じる
僕は平静を装って朝食を口に運ぶ
昨日は少し食べ過ぎたのかなお腹はもういっぱいだ
ごめんなさいのご馳走さまをして
身支度を整えるために立ち上がる
歯ブラシを出して歯を磨く
慣れてしまったのか歯磨き粉のサッパリとした感じが今日は不思議としなかった
寝間着を脱いでワイシャツを着る
いつの間にか一番下のボタンが取れてしまったらしい
ボタンの穴がひとつ余ってしまった
僕がゆっくりと着替えを進めていると
彼女は無言で近寄ってきて体温計を手渡してきた
手渡された体温計ともう一度彼女の顔の方を見る
彼女は促すようにくいっと首を前に動かす
それから世界が止まったかのように互いにピクリとも動かなかった
数秒が経過して僕はおとなしく椅子に座り体温を測った
その様子を見て彼女も対面に座りテーブルに肘をつきながら口を開いた
―――分かるよ、君の目を見つめると、大体
聞けば朝起きてからずっと普通を取り繕うような目をしていたらしい
普通を取り繕う目って何だそれとは思った
怪しさが確信に変わったのはそこからの行動らしい
普段ちゃんと食べている朝食を残して
歯磨き粉をつけずに歯を磨いて
ワイシャツのボタンをひとつ掛け違えているのにさえ気づいてないからだそうだ
指摘されて初めて首元に襟がちくちくと触れることに気づく
ちょうどこのタイミングで体温計が鳴った
38.6度
それを見て身体中から一気に力が抜け落ちていく感覚がした
もう動く気力も無くなった
参りました
してやったりの笑顔を浮かべる彼女
何か縛られていたものから解放して貰った気がした
彼女にありがとうを伝えてから今日一日は臨時休業に切り替えた