君の目を見つめると
何だか視線を感じる
僕は平静を装って朝食を口に運ぶ
昨日は少し食べ過ぎたのかなお腹はもういっぱいだ
ごめんなさいのご馳走さまをして
身支度を整えるために立ち上がる
歯ブラシを出して歯を磨く
慣れてしまったのか歯磨き粉のサッパリとした感じが今日は不思議としなかった
寝間着を脱いでワイシャツを着る
いつの間にか一番下のボタンが取れてしまったらしい
ボタンの穴がひとつ余ってしまった
僕がゆっくりと着替えを進めていると
彼女は無言で近寄ってきて体温計を手渡してきた
手渡された体温計ともう一度彼女の顔の方を見る
彼女は促すようにくいっと首を前に動かす
それから世界が止まったかのように互いにピクリとも動かなかった
数秒が経過して僕はおとなしく椅子に座り体温を測った
その様子を見て彼女も対面に座りテーブルに肘をつきながら口を開いた
―――分かるよ、君の目を見つめると、大体
聞けば朝起きてからずっと普通を取り繕うような目をしていたらしい
普通を取り繕う目って何だそれとは思った
怪しさが確信に変わったのはそこからの行動らしい
普段ちゃんと食べている朝食を残して
歯磨き粉をつけずに歯を磨いて
ワイシャツのボタンをひとつ掛け違えているのにさえ気づいてないからだそうだ
指摘されて初めて首元に襟がちくちくと触れることに気づく
ちょうどこのタイミングで体温計が鳴った
38.6度
それを見て身体中から一気に力が抜け落ちていく感覚がした
もう動く気力も無くなった
参りました
してやったりの笑顔を浮かべる彼女
何か縛られていたものから解放して貰った気がした
彼女にありがとうを伝えてから今日一日は臨時休業に切り替えた
4/6/2024, 4:41:56 PM