宝物
静寂の夜。
揺れる蝋燭の灯火が、
淡く温もりを描く部屋で、
君は穏やかな寝息を立てていた。
君の微笑みが。君の存在が。
何よりも愛しい、私の宝物だった。
だが、君は知らない。
その笑顔の奥に隠された影を。
君を苦しみから救い出す為に、
私が選んだ道が、
どれほど愚かであるかであるか、も。
夜が静かに深まっていく。
胸に芽生える決意は、揺るがない。
君が微笑み続けられるのならば、
私が消えることすら、厭わない。
夜の静寂の中、
君が目を覚ます。
その手に握られた銀色の刃が、
冷たく鈍い光を放ち、
君の瞳は感情の色を失っている。
刃が君の手によって、
私の身体へと吸い込まれる。
流れ落ちる赤が、
君の影を溶かし、
重い鎖を断ち切るだろう。
君の笑顔は、私の宝物だった。
それが護れるのならば。
君に掛けられた呪いが、
私の犠牲で解けるのならば。
私は無に帰しても構わない。
虚空に消えゆく残響だけを残し、
私の愚かな愛は、
永遠に彷徨うだろう。
ただ一つの宝物の為に。
キャンドル
暗い部屋に独り、
蝋燭の火を灯す。
買ったばかりの、
既製のアロマキャンドル。
仄かな光が、私を照らす。
けれど、その光では、
部屋の闇までは埋まらない。
それでも、私はただ独り、
揺れる炎を前に佇む。
小さな炎の揺らぎは、
心を癒してくれる、と、
貴方が教えてくれた。
あの日、貴方がくれた、
手作りのアロマキャンドルの香りは、
貴方に似て、どこか素朴で、
とても優しかった。
孤独な夜、
私を置いて去った貴方を想い、
市販の蝋燭に火を灯す。
けれど、その炎の向こうに、
貴方の姿を探してしまうんだ。
押し付けがましい香りが、
薄暗い部屋を満たす。
貴方のくれたアロマキャンドルは、
もっと静かに、深く、
私に寄り添ってくれたのに。
二人で寄り添い、
炎の温もりを分け合った夜。
言葉少なに語り合った、
あの愛おしい時間。
戻れないと知りながら、
もう一度、あの幸せに触れたくて。
揺れる炎の前で、
私は独り、願いをかけるんだ。
たくさんの想い出
この部屋には、
貴方との想い出が溢れている。
弱虫で、不器用な俺に、
貴方は、いつも優しく、
色々な事を教えてくれた。
強くて、優しくて、頼りになる。
そんな貴方が、
もう、この世に居ないなんて。
でも、貴方との、
たくさんの想い出は、
今も心の中で鮮やかに蘇る。
それは俺にとって、
何よりの宝物だから。
これからは、
たくさんの想い出を胸に抱えて、
独りきりで、
生きていかななきゃならないんだ。
怖くて、辛くて、淋しくて。
心が折れそうになるけど。
天国で見守ってくれてる、
大切な貴方の為にも、
俺はこの苦しみを、
乗り越えてみせるから。
次に貴方に会う時は、
立派に成長した姿を、
見て欲しいから。
だから、今はただ必死に、
地獄の様なこの世で、
前を向いて、生きていくんだ。
冬になったら
秋色に染まる街角を、
冷たい秋風が、
静かに吹き抜けていく。
風が運ぶ冷たさが、
私の心も、凍えさせる。
冬の足音が聞こえる街で、
今年も私は、独りきり。
嘗て隣にいた、貴方の温もりは、
もう、遠い記憶の向こう側。
「二人なら寒くないね」と、
寒がりの貴方を抱き締めた日々。
触れる度に、少し恥ずかしそうに、
微笑むその顔が、今でも愛おしい。
抱き寄せた貴方の温もり。
指先から伝わる優しさが、
まるで昨日の事の様に、
胸の奥で蘇り、心を締め付ける。
けれど。
どんなに願っても、
もう二度と戻れない。
貴方が隣に居てくれる、
温かくて幸せな日々。
今でも、貴方を愛してる。
この気持ちを、
そっと呟いてみる。
だけど、その声は、
きっと貴方には届かない。
冬になったら。
貴方は思い出してくれるかな?
…貴方の隣にいた私を。
…あの、幸せだった日々を。
冷たく、孤独な季節が、
私の心を、静かに覆い尽くす。
貴方の居ない冬が、
また、静かに巡ってくる。
はなればなれ
君に初めて出逢った日から、
君は、俺の憧れの光だった。
友達になっても、
その光は消えることはなく、
心の奥でずっと輝き続けてる。
幾つもの偶然と奇跡が重なって、
君と俺は出逢ったけど、
本当は交わる筈のない二人。
君と俺の生きる世界は、
本当は、離れ離れだって、
そんな想いが、俺を縛ってる。
それでも今は、
君の近くにいられる。
真剣な眼差しで、未来を見据える、
君のその横顔を、
近くで見詰められるだけで、
俺は、心が満たされるんだ。
君の隣に立つ資格なんてない。
それでも、君の近くで、
君の影のように生きていける。
それで、俺は幸せなんだと、
自分に言い聞かせる。
けれど、もし。
これから先、君と俺が、
離れ離れになる日が来ても、
君を想うこの心だけは、
永遠に、変わらないから。
君に出逢えたという、
この奇跡を抱き締めて、
ずっとずっと。
君の幸せを願うよ。