日射し
初夏の日射しがキラキラと輝き、
街に咲く花々は、
春の柔らかなパステルカラーを纏った、
優しげな色合いから、
夏の煌めきに負けない強さの、
鮮やかな色彩へと様変わりして。
その、痛い位明るい日射しに、
花々は一気に背を伸ばして、
エネルギーを享受する。
だけど。
その余りに力強い日射しは、
オレの心の奥の影を、
より黒く深い物に変えてしまう。
光は闇を強くする。
そして、その光が強ければ強い程、
闇もまた深くなる。
照り付ける太陽の元。
深淵の闇に足元を捉えられ、
闇の炎に覆われてしまわないように、
オレは。
空から照り付ける日射しとは、
真逆の光に向かって、
必死に手を伸ばす。
窓越しに見えるのは
仕事の合間に、ふと、窓の外を眺めた。
青い空には、太陽が輝いてた。
今日は良い天気だな、って、思って。
何か、テンションが上がった気がした。
と。
キラキラと輝く太陽の元、
憧れの先輩が歩いてきたのが見えた。
俺は思わず、窓を開けて、
先輩に声をかけようとした。
その瞬間。
先輩に小走りに駆け寄る人影が、一つ。
すると、先輩は、
その人に、飛び切りの笑顔を向けた。
そして、先輩とその人は、
とても親しげに、一緒に歩き出した。
窓越しに見えるのは、
幸せそうな先輩と、
俺じゃない誰かが、
親しげに連れ立って歩く姿。
隣に立つ『誰か』に、
優しくに微笑みかける先輩は、
ホントに幸せそうで。
なのに、俺は…。
窓越しに見える憧れの先輩を、
胸の痛みを堪えながら、
只、黙って見詰めるだけ。
赤い糸
東の方のある国では、
将来、結ばれる運命の男女は、
お互いの小指と小指が、
見えない赤い糸で結ばれている…。
そんな言い伝えがあるそうです。
『見えない』のに『赤い』なんて、
形容矛盾を含んだ、そんな言い伝えが、
真実である筈がないのは、解ってます。
ですが。
今、私の小指は、
貴方の血で真っ赤に染まっていて。
それはまるで、運命の赤い糸の様だと、
思えてならないのです。
そして、私の小指だけでなく。
私の掌も、腕も、胸も、脚も。
私が、貴方の胸に突き立てた、
ナイフの傷から溢れ出る、
貴方の血で、真っ赤に染まっています。
…次は。
私の血で、貴方の小指を染めましょう。
そして、二人から流れ出た赤い糸の中、
二人の世界に旅立つのです。
ずっとずっと…一緒に居ましょう。
だって。私と貴方は。
お互いの小指と小指が赤い糸で結ばれた、
運命の相手…になったのですから。
入道雲
何処迄も高く青い空に、
真っ白な入道雲。
まるで幼子が描く夏の絵の様な、
青と白のコントラストが、
私達の頭上に広がっていました。
余りに見事な入道雲。
夏の象徴とも言える雲を見て。
激しい夕立がやってくるのでは、と、
心配する私の隣で。
彼は、楽しそうに空を見上げて、
この雲が綿飴だったら、
皆でお腹一杯になる迄、
綿飴が食べられるのに。
…だ、なんて、
子供でも恥ずかしくて、
口にしない様な夢物語を、
惑いもなく語るのです。
そんな彼は、私には、
入道雲が浮かぶこの夏の空より、
ずっとずっと眩しくて。
この笑顔を護る為なら、
私は、何でも出来るのだろうと、
眩し過ぎる空に目を細め、
密かに、思うのです。
夏
夏の青い空を見ていると、
何だか、無性に悲しくなる。
夏の強い日射しも気に留めず、
麦藁帽子を被り、虫取り網を片手に、
甲虫を探し、蝉を追って、
朝から夕方迄、野山を駆け巡っていた、
あの日の少年は、
何処へ行ってしまったのだろう?
真っ白な入道雲の元、
太陽の激しい光を浴びて、
キラキラと輝く水面を見詰め、
海や川で、只管水浴びに興じていた、
あの日の少年は、
何処へ行ってしまったのだろう?
ここに居るのは、
本格的な夏の訪れを前に、
既に暑さに参った身体を引き摺り、
鬱々と仕事を熟す冴えない男が、
ただ、一人。