霜月 朔(創作)

Open App
7/2/2024, 5:43:10 PM

日射し


初夏の日射しがキラキラと輝き、
街に咲く花々は、
春の柔らかなパステルカラーを纏った、
優しげな色合いから、
夏の煌めきに負けない強さの、
鮮やかな色彩へと様変わりして。

その、痛い位明るい日射しに、
花々は一気に背を伸ばして、
エネルギーを享受する。

だけど。
その余りに力強い日射しは、
オレの心の奥の影を、
より黒く深い物に変えてしまう。

光は闇を強くする。
そして、その光が強ければ強い程、
闇もまた深くなる。

照り付ける太陽の元。
深淵の闇に足元を捉えられ、
闇の炎に覆われてしまわないように、

オレは。
空から照り付ける日射しとは、
真逆の光に向かって、
必死に手を伸ばす。

7/1/2024, 5:48:41 PM

窓越しに見えるのは


仕事の合間に、ふと、窓の外を眺めた。
青い空には、太陽が輝いてた。
今日は良い天気だな、って、思って。
何か、テンションが上がった気がした。

と。
キラキラと輝く太陽の元、
憧れの先輩が歩いてきたのが見えた。
俺は思わず、窓を開けて、
先輩に声をかけようとした。

その瞬間。
先輩に小走りに駆け寄る人影が、一つ。
すると、先輩は、
その人に、飛び切りの笑顔を向けた。
そして、先輩とその人は、
とても親しげに、一緒に歩き出した。

窓越しに見えるのは、
幸せそうな先輩と、
俺じゃない誰かが、
親しげに連れ立って歩く姿。

隣に立つ『誰か』に、
優しくに微笑みかける先輩は、
ホントに幸せそうで。

なのに、俺は…。
窓越しに見える憧れの先輩を、
胸の痛みを堪えながら、
只、黙って見詰めるだけ。

6/30/2024, 11:43:36 AM

赤い糸


東の方のある国では、
将来、結ばれる運命の男女は、
お互いの小指と小指が、
見えない赤い糸で結ばれている…。
そんな言い伝えがあるそうです。

『見えない』のに『赤い』なんて、
形容矛盾を含んだ、そんな言い伝えが、
真実である筈がないのは、解ってます。

ですが。
今、私の小指は、
貴方の血で真っ赤に染まっていて。
それはまるで、運命の赤い糸の様だと、
思えてならないのです。

そして、私の小指だけでなく。
私の掌も、腕も、胸も、脚も。
私が、貴方の胸に突き立てた、
ナイフの傷から溢れ出る、
貴方の血で、真っ赤に染まっています。

…次は。
私の血で、貴方の小指を染めましょう。
そして、二人から流れ出た赤い糸の中、
二人の世界に旅立つのです。

ずっとずっと…一緒に居ましょう。
だって。私と貴方は。
お互いの小指と小指が赤い糸で結ばれた、
運命の相手…になったのですから。

6/29/2024, 5:57:57 PM

入道雲


何処迄も高く青い空に、
真っ白な入道雲。
まるで幼子が描く夏の絵の様な、
青と白のコントラストが、
私達の頭上に広がっていました。

余りに見事な入道雲。
夏の象徴とも言える雲を見て。
激しい夕立がやってくるのでは、と、
心配する私の隣で。
 
彼は、楽しそうに空を見上げて、
この雲が綿飴だったら、
皆でお腹一杯になる迄、
綿飴が食べられるのに。
…だ、なんて、
子供でも恥ずかしくて、
口にしない様な夢物語を、
惑いもなく語るのです。

そんな彼は、私には、
入道雲が浮かぶこの夏の空より、
ずっとずっと眩しくて。

この笑顔を護る為なら、
私は、何でも出来るのだろうと、
眩し過ぎる空に目を細め、
密かに、思うのです。


6/28/2024, 4:09:42 PM




夏の青い空を見ていると、
何だか、無性に悲しくなる。

夏の強い日射しも気に留めず、
麦藁帽子を被り、虫取り網を片手に、
甲虫を探し、蝉を追って、
朝から夕方迄、野山を駆け巡っていた、
あの日の少年は、
何処へ行ってしまったのだろう?

真っ白な入道雲の元、
太陽の激しい光を浴びて、
キラキラと輝く水面を見詰め、
海や川で、只管水浴びに興じていた、
あの日の少年は、
何処へ行ってしまったのだろう?

ここに居るのは、
本格的な夏の訪れを前に、
既に暑さに参った身体を引き摺り、
鬱々と仕事を熟す冴えない男が、
ただ、一人。

Next