霜月 朔(創作)

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6/23/2024, 5:39:03 PM

子供の頃は


子供の頃は、
貴方が好きだよ、と、
あんなに素直に言えたのに。

内気で弱虫な私を手を、
何時でも引いてくれていた貴方は、
ずっと私の憧れでした。

でも、大人になると、
本当の気持ちを、
はっきりと言えなくて。

貴方は変わらず私に、
笑顔を向けてくれたのに、
私は頬を染めて俯くばかり。

子供の頃は言えた言葉を、
大人になってから、
改めて貴方に伝えたくて。
でも、言えなくて。

もしも。貴方が昔と変わらず、
私に微笑みかけてくれるなら、
私は、貴方に伝えましょう。

今でも変わらず、貴方が好きですよ、と。

6/22/2024, 5:51:19 PM

日常


朝起きて、身支度を整え、
皆に挨拶して、朝御飯を食べる。
仕事をして、昼御飯を食べて、
また仕事をして。
仕事が終わり、束の間の自由時間。
晩御飯を食べ、入浴し、
寝支度を整え、眠りに就く。

繰り返される、何気ない日常。
貴方が生きている時から、
代わり映えのない、日々の生活。

貴方が俺の側に居たときは、
単調な日常も、楽しかったのに。
貴方が居なくなっただけで、
こんなにも、色褪せてしまうなんて。
貴方がいる頃には、想像出来なかった。

大切な人が居てくれるから、
日常は愛おしいのだと、
貴方を亡くしてから気付くなんて、
俺はなんて、愚かだったのだろう。

6/21/2024, 5:48:48 PM

好きな色


世の中の大きな流れには逆らえず、
気付けば、濁流に飲み込まれ、
必死に藻掻いても、
苦しみながら溺れ、沈み行く。

どちらが水面なのか分からず、
水に混ざる泡と波に光が拡散し、
何処も彼処もキラキラとして。
やがて、暗転していく。

黒…黒…。
闇の色。
意識が遠退く俺の目に、
見えるものは…全てモノトーン。

俺の人生なんて、
常に時勢の濁流の中で、
溺れているに等しい。
そんな俺の生きる世界に、
色なんて代物は、最早…ない。

こんな俺が、未だに好きな色。
昔、好きだった深紅の薔薇の、
その紅さだけが、
俺の記憶に留まっている、
数少ない幸せな思い出の欠片だ。

6/20/2024, 4:59:53 PM

あなたがいたから


貴方に出会う迄、
私は、人の形をした武器でした。

物心の付いた時には既に、
親の無かった私は、
使い捨ての兵士にする為に、
生かされ、育てられました。

貴方に出会う迄、
私は、人の形をした獣でした。

私を人間兵器として扱う輩から、
何とか逃げ出したけれど、
私は、人間のコミュニティには入れず、
人目を避け、山の中で暮らしました。

でも、貴方は。
こんな私に、優しく手を差し伸べ、
人間の世界に戻してくれたのです。

貴方が居たから、私は、
人間になれた。
貴方が居たから、私は、
人間で居られる。

そう。今の私には。
貴方は私の全て。

貴方さえ居てくれれば、
他には何も…要らないのです。

6/19/2024, 6:00:07 PM

相合傘


彼と出掛ける約束をしていた日曜日。
天気予報は、曇り所により雨。
こんな天気予報の日に出掛けるのなら、
傘を持って行くべきか、と思い、
折り畳み傘を鞄に忍ばせました。

鉛色の厚い雲は、空を覆い尽くし、
大きな雨粒が、バタバタと、
音を立てて落ちて来ました。
私達は軒先に逃げ込みました。
見上げても、空は暗く雲は厚く。
雨が止む気配は全くありません。

私は、折り畳み傘を持っていましたが、
彼は、傘が無い、と。
ならば、と。
私は、彼に自分の折り畳み傘を手渡し、
一人、雨の中へ駆け出しました。

雨の中、一人びしょ濡れで走る私は、
相合傘の二人連れとすれ違いました。
仲睦まじく、一つの傘に、
身を寄せ合っている二人…。
幸せそうな、相合傘。

相合傘なんて。
私には望むべくも無いのです。
今の私には。
私の傘で、彼が濡れずに済む。
それだけで十分なのです。

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