引き出しを開けたら、
青い猫が出てきたらいいのにねって
なんでもできるポケットで、
夢を叶えてくれたらいいのにねって
いつも言っていたよね
私はまだ子どもだったの
青い猫を信じたほど
過去は変えられると信じたほど
私もお星様になったら、
ずっと一緒だと信じたほど
空の瞬きに祈っても
時空の歪みに消されてしまう
過去など変えられないの
神様でさえ時間の奴隷
廻り続ける精美な歯車
神様が許さなくても
お星様にはなれるでしょ
一度だけ罪を犯します
泥にまみれて探し続けた
あの鈴の半分を、歯車に噛ませるの
からまわる、からまわる、からまわる
神様は怒る
でもそれでいいの
私たち、タイムパラドックスに消えていく
手を取り合って、時空乱流の中で
鈴の半分を二人で握るの
青い猫はきっといる
私たち、ずっと子どもだもの
#もしもタイムマシンがあったなら
その水晶体が映す景色を
その硝子が結ぶ像を
その涙に反射する私を
淡い茶色の虹彩で
深い黒の瞳孔で
睫毛に触れる程近く
瞼の震えさえ感じる程近く、近く
私の涙腺を壊して
私の角膜に傷を付けて
もしも私が盲点にいるなら
視神経までを指に絡めて
脳を犯して狂わせて
貴方の網膜はもう私のもの
よどみない貴方の瞳の中
視線の先には、
私の涙に反射する貴方がいて。
#視線の先には
私だけの幸せ
本をめくるときの紙の匂い
私だけの喜び
久しぶりに見ても散っていない花
私だけのときめき
街角で目が合うぬいぐるみ
私だけのドキドキ
車と先を譲り合う曲がり角
私だけのモヤモヤ
四隅まで裂いた飴の袋
私だけの悲しみ
カメラを構えると逃げる野良猫
私だけの憂鬱
傘をさすか迷う小雨
私だけの寂しさ
夕方のチャイムを届ける風
私だけの秘密
きっとどこかの誰かもそうだよと笑う貴方
私だけの貴方
どこかの誰かを知らなかった私に
世界は広いと教えてくれた人
#私だけ
今日は海の日
うららかな夏の日だった
髪を乱す風が心地良かった
身体は透明に染められた
このまま私の何もかもを
吹き飛ばして、攫っていってよ
鳥になって高く飛翔する
縛られない自由を夢見る
風をとらえた翼をはためかせる
髪を解きたくなったの
なびく黒に櫛はいらない
人魚姫は、泡になって消えるんだっけ
最後は、風の精になるんだっけ
生まれ変わったら人魚になりたいと思っていた
そんな頃もあったな
私は泳ぐのが下手だった
泡沫に溶けたかった
潮が出迎えてくれた
口をひらけば涙の味
きっとたくさんの人が
ここで泣いたのね
遠くなる水面に射し込んでくる
暑い暑い夏の光が
人生で一番美しい景色だった
今日は、海の日。
#終わりにしよう
指の長いあなたのつくる
キツネさん
爪の長いわたしのつくる
つばめさん
ひらひら、ひらひら
つばめを飛ばす
コンコン、コンコン
キツネは探す
つかまえた!とあなたは笑った
捕らえられたつばめはキツネのとりこ
街灯のした
ふたりだけの影遊びはおしまい
キツネはもう、つばめを離さない
寒いね、帰ろうか
ポケットの中は巣みたいに暖かい
#手を取り合って