ゆるやかに死んでいく宝石を抱きしめていて
もういいよって言われたかった
わたくしはどうしてアメジストになれなかったのか
分かる気がします 今なら
例えばあの空が紫になる時間に微睡みさえ覚えずに
ずっと鳥を観ていたのでした
例えばあの雲が漆黒になる時間に涙を流しながら
歌っていたのでした
天使のたまごのメインテーマだけがわたくしを救います
セシル・コルベルのハープがわたくしの心の旋律です
フランス語は話せなくて良かった
草原に寝転んで廃墟の神殿だけを眺めていたいの
踊り子の夜間飛行を共にしたいの
女神の逃避行には銀の龍に乗って駆けるわ
そうすればわたくしは死なずに済むのかしら
もういいよって 囁いてくれる誰かがいれば良かった
わたくしはどうしてアメジストになれなかったのか
わたくしが生きたいと願うから
アネモネの紅さが目に染みて痛いわ
神話では流された涙 溢れ出た血から
出来た花なんですってね
わたくしの神話にはハープを必ず登場させて
子羊はずっとここにいる
わたくしが死んだその後も
ずっとずっと
ここにいる
翳りの水底から這い出したとしたら
水の中で淡い輪郭を作り
揺れながら、揺蕩いながら、彷徨いながら
泡の私は水に馴染めぬままただ上に昇るだけ
水と空気は相容れないもので
だから私はこんなにも醜いもの
昇り詰めれば、溶けて消えられる
消えたい気持ちは泡のよう
泡は消えたい私のよう
そらまでとんで、はじけてきえた
歌にしてみてよ
物語にしてみてよ
シャボン玉みたいにさ、
あの人魚みたいにさ
私を忘れないでよ
たとえ泡だったとしても
#泡になりたい
また今年も垣間見る、
入道雲と明瞭な空
夕立と濡れたコンクリートの噎せ返る香り
あの匂いは鼻孔にこびりついて離れない
貴方の香水を彷彿とさせる
二人で差した傘と汗とラベンダーのフレーバー
あの時も、コンクリートは濡れたままで
湿度が纏わりつくのさえ快感だった
またあのラベンダーを纏って
私に逢いに来て
待っているから
沈黙しか返してくれない貴方を
待っているから
#ただいま、夏。
8月、君に会いたい
うだるような暑さの中で、
私の汗は蒸発して空気に染み込んだ
柔らかな風が頬を包み、
風鈴が空気を震わせる
ちりんちりんと鳴り響くのは
まるで君が乗ってくる足音みたいで
期待をしてはまた、汗を拭う
花火を見て思う
君の目からはこれは何色に映るのだろう
私と時を共にすると、
どれくらい世界の色が変わっているのだろう
頭垂れた私の涙に気付けるくらい
透明を見つけて欲しいよ
鎮魂歌をうたおう、
あの花火が燃え尽きるまで
#8月、君に会いたい
やたら暑かったね、
私の熱を掻き消すほどの暑さの中で君を抱いた、
君はまるで夏に食べるアイスのよう
君の心の氷を溶かしてしまいたい、
あわよくば液体になった君を飲み干したいんだ
揺れる鼓動の欠片が身体に染み込んだら
私の鼓動も倍になって破裂してしまいそうだよ
それでいいんだ
暑さに溶けてどろどろになって
二人だけのオーロラソースを作ろう
脈打つ血の色は私で
目の覚めるようなまろやかな酸味は君だ
煮詰めて美味しい料理を作ろう
神様、私たちを美味しく食べて
こんなにも人間を謳歌している
まるであの知恵の実のような味がするでしょう。
#熱い鼓動