翳りの水底から這い出したとしたら
水の中で淡い輪郭を作り
揺れながら、揺蕩いながら、彷徨いながら
泡の私は水に馴染めぬままただ上に昇るだけ
水と空気は相容れないもので
だから私はこんなにも醜いもの
昇り詰めれば、溶けて消えられる
消えたい気持ちは泡のよう
泡は消えたい私のよう
そらまでとんで、はじけてきえた
歌にしてみてよ
物語にしてみてよ
シャボン玉みたいにさ、
あの人魚みたいにさ
私を忘れないでよ
たとえ泡だったとしても
#泡になりたい
また今年も垣間見る、
入道雲と明瞭な空
夕立と濡れたコンクリートの噎せ返る香り
あの匂いは鼻孔にこびりついて離れない
貴方の香水を彷彿とさせる
二人で差した傘と汗とラベンダーのフレーバー
あの時も、コンクリートは濡れたままで
湿度が纏わりつくのさえ快感だった
またあのラベンダーを纏って
私に逢いに来て
待っているから
沈黙しか返してくれない貴方を
待っているから
#ただいま、夏。
8月、君に会いたい
うだるような暑さの中で、
私の汗は蒸発して空気に染み込んだ
柔らかな風が頬を包み、
風鈴が空気を震わせる
ちりんちりんと鳴り響くのは
まるで君が乗ってくる足音みたいで
期待をしてはまた、汗を拭う
花火を見て思う
君の目からはこれは何色に映るのだろう
私と時を共にすると、
どれくらい世界の色が変わっているのだろう
頭垂れた私の涙に気付けるくらい
透明を見つけて欲しいよ
鎮魂歌をうたおう、
あの花火が燃え尽きるまで
#8月、君に会いたい
やたら暑かったね、
私の熱を掻き消すほどの暑さの中で君を抱いた、
君はまるで夏に食べるアイスのよう
君の心の氷を溶かしてしまいたい、
あわよくば液体になった君を飲み干したいんだ
揺れる鼓動の欠片が身体に染み込んだら
私の鼓動も倍になって破裂してしまいそうだよ
それでいいんだ
暑さに溶けてどろどろになって
二人だけのオーロラソースを作ろう
脈打つ血の色は私で
目の覚めるようなまろやかな酸味は君だ
煮詰めて美味しい料理を作ろう
神様、私たちを美味しく食べて
こんなにも人間を謳歌している
まるであの知恵の実のような味がするでしょう。
#熱い鼓動
宇宙の塵になれば星として光る
この命散るとしてもいいの
もしお空の星になるのなら僕は
海の鏡になって映すよ
鏡写しの命とは等しくて
波の狭間に輝く二人
#星を追いかけて