どんぐりの背比べだねと笑われて
「そんなわけない」が喉に詰まって
返したおかしな愛想笑い
初めて気付いた
ずっと甘い優越感を食べた口で
あなたと話していたこと
私と同じだねと笑ってくれる
隣を歩くあなたの顔は見えない
今まで私のお腹を満たしてくれるものは
あなたの笑顔と優しさだと信じていた
今になって虫歯が疼きだす
劣等感が私の白を蝕む
痛くて痛くて
たった「ごめんね」のためにさえ
口をひらけない
あなたの笑顔はずっと眩しい
あなたの優しさはずっと温かい
でもあなたは私みたいにはなれない
あなたと私は同じじゃない
痛い
私はあなたにはなれない
#優越感、劣等感
曲がったひげと
くすんだ白と
絡む毛玉と
くせのついた毛並み
飛び出た綿と
縫われた跡と
ほつれかける糸と
色あせたタグ
汗の匂い、涙の匂い
布団の匂い、私の匂い
洗濯の後の、日向の匂い
ベッドが狭くなったこと
窮屈さが嬉しかったこと
旅先の景色を見せたこと
眠れない夜にしがみついたこと
涙を拭ってくれたこと
あたたかかったこと
一緒にいる年数を数えたこと
いつしか片手で持っていたこと
抱きしめたとき、なんだか小さく感じたこと
お裁縫を覚えたの
ちょっと痛いかもしれないけど
少しの辛抱ね
もうお母さんは縫ってくれないわ
#これまでずっと
たったひとつのメッセージ
風に乗れない紙飛行機
下書きまでしたのに
読み返して、✕を長押し
文通をしてみたいと思うの
青い便箋に心を描くの
消しゴムも✕もいらないわ
窓を開けて
インクが乾くまで雲を眺めるの
風を受ける翼をつけたら、
ほら完成
紙にインクを滑らすとき
心の形が見える気がするの
色は少し滲んでしまったけれど
それは私の手が、心に素直だから
無機質な画面の中は
風がないものね
青い紙飛行機
その翼で、きっと、届けてくれるよね
画面にはおさまりきらない、私の心
#1件のLINE
目が覚めたとき
遠のいていく夢の断片を手繰り寄せる時間
ホワイトパズルをはめるような虚ろのなかに
失いたくない何かがあるような気がして
言えなかったごめんなさいが
重くてまだこびりついていていて
唯一、時間を巻き戻せる世界だから
夢のようなフィクションを歩けるの
仮初の理想郷を踏んだ足は
絡みつく毛布を拒絶して
ごめんなさいが言えた私は
言えなかった卑怯な私を蹴飛ばしてくる
分かっているの
あの子には、もう会えないことを
それでも
ホワイトパズルを、諦められなくて
#目が覚めると
深夜の、高台にある公園が好きだった
ブランコを揺らしながら、街を見渡すの
勉強、読書、通話
眠れない人、眠りたくない人
街の明かりひとつひとつに、生活が詰まっているのね
お風呂の湯気や作り置きのカレーの香りも
夜風に漂う生活の一部なのね
私の部屋の明かりは、今は消えている
少しだけ、逃げていたいの
明かりのない部屋にも
眠れない人はきっといるのに
夜の闇に紛れてしまうから
私からも見えないの
見たくないものに蓋をするために
この公園にいるのかしら
ブランコの軋む音
誰も聞かないでいて
#街の明かり