たったひとつのメッセージ
風に乗れない紙飛行機
下書きまでしたのに
読み返して、✕を長押し
文通をしてみたいと思うの
青い便箋に心を描くの
消しゴムも✕もいらないわ
窓を開けて
インクが乾くまで雲を眺めるの
風を受ける翼をつけたら、
ほら完成
紙にインクを滑らすとき
心の形が見える気がするの
色は少し滲んでしまったけれど
それは私の手が、心に素直だから
無機質な画面の中は
風がないものね
青い紙飛行機
その翼で、きっと、届けてくれるよね
画面にはおさまりきらない、私の心
#1件のLINE
目が覚めたとき
遠のいていく夢の断片を手繰り寄せる時間
ホワイトパズルをはめるような虚ろのなかに
失いたくない何かがあるような気がして
言えなかったごめんなさいが
重くてまだこびりついていていて
唯一、時間を巻き戻せる世界だから
夢のようなフィクションを歩けるの
仮初の理想郷を踏んだ足は
絡みつく毛布を拒絶して
ごめんなさいが言えた私は
言えなかった卑怯な私を蹴飛ばしてくる
分かっているの
あの子には、もう会えないことを
それでも
ホワイトパズルを、諦められなくて
#目が覚めると
深夜の、高台にある公園が好きだった
ブランコを揺らしながら、街を見渡すの
勉強、読書、通話
眠れない人、眠りたくない人
街の明かりひとつひとつに、生活が詰まっているのね
お風呂の湯気や作り置きのカレーの香りも
夜風に漂う生活の一部なのね
私の部屋の明かりは、今は消えている
少しだけ、逃げていたいの
明かりのない部屋にも
眠れない人はきっといるのに
夜の闇に紛れてしまうから
私からも見えないの
見たくないものに蓋をするために
この公園にいるのかしら
ブランコの軋む音
誰も聞かないでいて
#街の明かり
霧がたちこめる。
白く、淡く、霞んでゆく。
周りには誰も居なくなった。
迷ってしまったのは、仲間たちではないだろう。
私が自分で道を外れて、助けを求めずに独りで歩き続けて、自分で自分の首を絞めているだけのことなのだ。
道を間違えた。
自分で選んだはずだった。
それなのに、あの人たちとは進む道が違ったのだということを、未だに受け入れられずにいる。きっともうとっくに、青空の下で光を浴びているのだろう。私一人を抜いただけの、あの仲間たちで。
人知れず茨の道を選ぶ私は、ひどく意地っ張りだ。
何だって一人でやってみせたかった。
一人で茨を切り開き、一人で濃霧を振り払ったことに、誇りを持っていたいのだ。
湿度、嫌な汗、手に付いた泥、
見えない道の先、堪える涙、それでも止めたくない足。
先が見えずとも、どれだけ遠回りでも、
いつか必ず辿り着いてみせるの。
人とは違う道筋だって、近道が分からなくたって、
時間をかけて歩き続けるの。
私なりの歩み方で見つけた、青空の下へ。
#この道の先に
鳩が飛んでいった。
君への本当の想いは綴れずに、飛ばしてしまった。
生きていて欲しい。
私を忘れて欲しい。
笑っていて欲しい。
薄っぺらく、
上っ面だけは愛人の幸せを願う誠実な人であるような、
そんな言葉をつらつらと書き並べてしまった。
君は、どう思うのだろうね。
白い鳩の背中が、やけに目に痛い。
遠ざかる鳩を見送っていた、その時。
鳩の背中から何かが飛び出た。
白銀の羽毛に、赤い血がよく目立つ。
やがて鳩は、力が抜けたように、
地面に真っ逆さまに落ちていった。
矢に打たれたのだ。
私は我に返る。
そうだよな。
こんな戦場の真ん中で、
便りを綴り、鳩を飛ばし、その行方を悠長に眺めている
私がおかしいのだ。
君と一緒に人生を終えることが出来たら、
どんなにか良かっただろう。
君と死にたい。そんな私の我儘を許してくれる君を、
私は心の奥底で探している。
今日ほど、己の筆不精をありがたく思った日は無い。
死に際に書いた手紙でさえ、
私は綺麗事しか書き出せない。
本当の気持ちは書けず、
嘘の気持ちを書いた手紙は届かなかった。
これで良かったのだ。
泥臭い私の気持ちなど、君は知るべきじゃない。
君の中の私を崩さないように。
私の中の君を苦しませないために。
私はここで死に、平和の礎となる。
いつかまた、誰かが鳩を飛ばす時、
届くのが哀しみの手紙ではなく、
オリーブの小枝であったなら、
私も報われるだろう。
#どこにも書けないこと