鳩が飛んでいった。
君への本当の想いは綴れずに、飛ばしてしまった。
生きていて欲しい。
私を忘れて欲しい。
笑っていて欲しい。
薄っぺらく、
上っ面だけは愛人の幸せを願う誠実な人であるような、
そんな言葉をつらつらと書き並べてしまった。
君は、どう思うのだろうね。
白い鳩の背中が、やけに目に痛い。
遠ざかる鳩を見送っていた、その時。
鳩の背中から何かが飛び出た。
白銀の羽毛に、赤い血がよく目立つ。
やがて鳩は、力が抜けたように、
地面に真っ逆さまに落ちていった。
矢に打たれたのだ。
私は我に返る。
そうだよな。
こんな戦場の真ん中で、
便りを綴り、鳩を飛ばし、その行方を悠長に眺めている
私がおかしいのだ。
君と一緒に人生を終えることが出来たら、
どんなにか良かっただろう。
君と死にたい。そんな私の我儘を許してくれる君を、
私は心の奥底で探している。
今日ほど、己の筆不精をありがたく思った日は無い。
死に際に書いた手紙でさえ、
私は綺麗事しか書き出せない。
本当の気持ちは書けず、
嘘の気持ちを書いた手紙は届かなかった。
これで良かったのだ。
泥臭い私の気持ちなど、君は知るべきじゃない。
君の中の私を崩さないように。
私の中の君を苦しませないために。
私はここで死に、平和の礎となる。
いつかまた、誰かが鳩を飛ばす時、
届くのが哀しみの手紙ではなく、
オリーブの小枝であったなら、
私も報われるだろう。
#どこにも書けないこと
2/8/2023, 10:52:52 AM