この部屋に閉じ込められて、どんなに時間が経っただろうか。
真っ白とも言えるし、真っ暗でもあるような気がする。今はその違いがわからなかった。
いかんせんこの部屋は、俺の頭をおかしくしている。
脱出は不能だ。窓もドアもない。あるのかもしれないが、俺にはその場所がわからない。
歩くことはできるが、得体の知れない浮遊感や不快感に襲われるので控えることにしている。
いつからか動くこともやめ、諦めて床に伏している。
だって出られないのだからしょうがない。
腰を上げ、数十歩歩くが、やはり何もない。
ほら、もう出られないんだって…、…!
手に冷たい感触、壁だ!
なんだ?なんで?
壁を伝い少し歩くと、別の感触が現れた。
押してみると、外に出た。
砂浜だ。
「へへっ、なんだよ…!」
バカみたいだ。
俺は自由になった。
近くの人間を探そう。
『身元不明の男の遺体が浜で発見されました。死因は餓死だと推定されていますが、現在調査中です』
お題「無色の世界」
踏みつけた桜の花弁に、どこか胸が痛む。
新生活ももう退屈の味がしてきた。どこか遠い街にでも旅に出たい気分だ。
勿論、億劫の支配下にあるうちは無理だろうが。
昨日の出来事も思い出せないような生活をしている。
明日への恐怖さえも今日の徒労が飲み込んだ。
この噛み合ってしまっている歯車を何処かぶち壊してやりたいなどと考えてみる。そんな力があったらどうしようか。力がないからこんな考えが浮かぶのだろうか。力無き私には妄想の根が到底届きそうにない。
味のしない夜食を貪り、ウイスキーの瓶に口をつけ、流し込む。
「あ…。」
最後の黄金の雫が舌に落ちる。
一瞬俯き考えたが、酔いの熱に任せて家を飛び出した。
今日の晩酌はまだ終わらせたくなかった。
「さびぃー…。」
深夜に部屋着はまだ冷える。加えて風も吹いている。
ポッケに手を突っ込んで肩をすくめる。
「あざしたー」
バイトのやる気のない返事を聞きながら退店しようとした。
だが、痛覚が私を遮った。
店員の悲鳴が聞こえる。
落としたウイスキーが割れたのと同時くらいだろうか。それとも私が地面に伏したくらいか?
「ひ、クキ、くぅっ!」
背後で男がおかしな声をあげ、どこかへ逃げて行った。
なんだその情けない声は。
叫びたいのはこっちだ。
だが、どう足掻いても呻き声しか喉から放出されない。
背中の熱が消えない。
チッ、こんなとこで終わりかぁ。
「ははっ」
脇越しに背中を触った手は、真紅で何処か美しい。
自動ドアからはみ出した私を祝福するように、暴風が桜を巻き上げる。
ははっ。ははははははは!
笑いが止まらなかった。声が出ているのかはわからなかった。
真紅と薄紅と暗闇に抱かれて、何もかもを笑ってやった。
涙が流れていたのは、ただ痛かったんだ。
痛くて、痛くて、痛くて。
お題「桜散る」