切れ味のいい鋏が欲しい
どこに繋いでいるかわからないから
取り敢えず小指から一本ずつ試すから!
そういって駆け込んできたのは
しとどに雨に降られたらしい女の子だった
指ごといきそうな、勢いで
カウンターの奥からタオルを取り出し
渡しがてら思案する
はて
ここは道具屋じゃないんだけどな
カウンターの後ろに並んでるのは
ざらっとした手触りの書籍の羅列
仕方ないなぁ
阿部貞は避けて
無難にあかずきん にしておくか
そう思ってパンと温めた葡萄酒も出し
オオカミヨウのハサミを書籍から抜き出した
悪縁は切れるんじゃないかな
獣の腹をざくざくやれるくらいだから
彼女はやった
思い切りいった
カラッポになった相手の空洞には
お決まり通り石ころを詰め込んできた、と
意気揚々と笑っていた
絶望を一瞬だけ攫ってくれる青空
くっきりとした色になる季節に
いまこそ救われたいと思っている
耳を塞いでも塞いでも
誰かの何かばかりで
それ以外の晴れ渡る
たくさんを観たい
開いたばかりの ニ から
ぼたぼた溢れる 揺れる視界のまま
微かでいい
僅かでいい
口角を、上げろ
親方ー!!
何か塩顔眼鏡イケメンが空から
降って来ただー!!
(例のキラキラした音の脳内再生をどうぞ。)
みたいなことが起きない限り
あたしの世界は完結しないんじゃないかと思う
思春期の女の子の数学ノートの裏側
走り書きされた落書き文章である あたし は
行間のなかで身動き取れないまま
ゾンビモノと怪奇現象モノだけは
ご勘弁ください、とばかり
頭を悩ませながら
シャーペン突き刺してくる
あなたを見上げています
どうか
どうか。
みらーいみらい から
語りが始まる
未来話 を 聞きに行った
占いのようなものは
信じられないけれど
語り部が語る未来には少し興味が沸いた
街中ビル4階
資料室のような雰囲気の扉を開ける
5歳くらいの女の子がちょこんと
革張りソファーに腰掛けていた
僕と目が合うと細い月みたいに
薄っすら笑う
あどけない声で向かい側に座るよう促され
着席したと同時に
(みらーい みらい)
脳内に 声が聞こえた
目の前にいるのは小さな女の子なのに
聞こえてくる声は嗄れている
待ち合わせは 913.6 ム
海辺のカフカ、前
もしかしたらいま
向かい側の棚の本を引き出しているのが
彼女かもしれない
と思いながら 僕は待った
同じ町の図書館である確率ははたして
どれくらいだろうか