NoName

Open App

切れ味のいい鋏が欲しい
どこに繋いでいるかわからないから
取り敢えず小指から一本ずつ試すから!

そういって駆け込んできたのは
しとどに雨に降られたらしい女の子だった

指ごといきそうな、勢いで
カウンターの奥からタオルを取り出し
渡しがてら思案する

はて
ここは道具屋じゃないんだけどな

カウンターの後ろに並んでるのは
ざらっとした手触りの書籍の羅列

仕方ないなぁ
阿部貞は避けて
無難にあかずきん にしておくか

そう思ってパンと温めた葡萄酒も出し
オオカミヨウのハサミを書籍から抜き出した

悪縁は切れるんじゃないかな
獣の腹をざくざくやれるくらいだから

彼女はやった
思い切りいった

カラッポになった相手の空洞には
お決まり通り石ころを詰め込んできた、と
意気揚々と笑っていた

6/30/2023, 1:02:16 PM