「不安はらむ安心」
もしもし
あーちゃんに電話
話がひと段落すると
ちょっと待ってね
ごそごそ
もしもし
と、じいじが出る
体調がいい日の声
なんてことない
そのひとときの
ぬくもりに
ふぅと力が抜ける
それでも
安心をもたらす
そのひとときも
いつか
終わりがやってくる
と思うととたんに
不安に包まれる
安心はいつも
いつかの不安を
はらんでいるのかもしれない
絶対的な安心なんて
存在しないのかもしれない
ただ、いつか
あぁなんて
あったかかったんだろうなぁ
と肌で感じられるよう
見つめよう
耳を傾けよう
寄り添おう
#安心と不安
「シルエット」
まぶしい光のなか
うっすらと
愛おしい
シルエットだけが
浮かび上がる
光が強ければ強いほど
陰もまた強く
引っぱりあって
存在している
私が惹かれたのは
あなたの光だろうか
陰だろうか
目を細めて
淡く発光する
あなたを見つめる
#逆光
「死が正義だった夜」
あまりにも
なまなましい夢をみた
ときは戦国
もしくは世界大戦中
追い詰められわたしたちは
みずから火を放ち
死することを選ぶ
後ろから火が
火が迫ってくる
中にはやはり生きたい、
と逃げ出す者もいる
逃げ出そうと
思っても
足が動かず
そのまま
火に飲み込まれる者もいる
この世界では
逃げることは
裏切りを意味する
それでもなお生きたい
生きたい
わたしは逃げていた
教科書を
読んでいたときには
なぜ
集団自決なんて
なぜ
命を無駄にしてしまうの
と思っていた
夢の中のわたしは
仲間への国への
裏切りに
胸が張り裂けそうに
なりながら
逃げおおせた
たとえ夢の中だとはいえ
死が正義だと思った夜
こんな現実を
現実として生きた人々
#こんな夢をみた
「カプセル」
この大きな木の下に埋めておこう
右から3番目のメタセコイア
いい匂いのする消しゴム
うまくできた作文
ほつれたハチマキ
図書委員でつくった栞
みんな育てたアサガオのタネ
持ちえる
めいっぱいの
宝ものを詰め込んだ
あのときあの場所でだからこそ
形を成した
いまではガラクタのような
ものたち
疑いを知らない
わたしたちからの
一方通行なメッセージ
もしもし
と言ったら
お喋りできたらいいのに
いまのわたしの
大切なもの
毎日の暮らし
これからのこと
返事をしにいこう
くるくると
澄んだ瞳で
きいてくれるだろうか
ふらりと頭に落ちる
メタセコイアの葉
#タイムマシーン
「もぐるかい」
自己分析という名の
底なし沼
力んでもがいて
を繰り返すうち
溺れそうになる
そんなとき
空気となって
息をさせてくれる人がいた
光となって
照らしてくれる人がいた
深呼吸しながら
導かれながら
自分の中へ深く深く
もぐる
たどり着いた海の底
そこは
カラフル
それぞれに自分色した
魚たちが
ゆうゆうと泳ぎ回っていた
ひとりじゃなかったんだ
みんなすてきだな
もぐってみることで気づいたこと
ひとりでは気づけなかったこと
あなたも一緒にもぐるかい?
#海の底