冷たい空気が刺すように鋭く感じる。
おかしいな、マフラーも巻いて、モコモコのジャンパーだって着てるのに。
途中のコンビニで買ったカイロで震える指先を必死で温めても、震えが止まらなかった。
「…どうしよう、お家、帰りたくないや」
唯一心を許せる飼い犬の散歩に行った帰り道、足が動かなくなってしまった。
今思い返せば、あの時の不安だった自分の元へ駆けていきたいと感じる。駆け寄って、思いきり抱きしめて、「あなたが心の底から行きたいと思う場所に行こう」と言ってやりたい。
そうすれば、冬の寒さが身にしみるのが、今もこんな風に辛いはずはないのに。
ぎゅむぎゅむと積もった雪を濡れた革靴で踏みつけていく。
ぴんと張り詰めた冬の空気が頬をひやりと撫でた。
『お互い受験も終わったしそろそろ恋愛の方の春も準備しよう。まじでほんとお前には幸せになってほしい。最高にいいヤツだからさ』
先程男友達に、にやにやしながらそう言われた。
覚悟はしていた。例えるなら、自分のこの気持ちは、日光が当たれば溶けてしまう雪のようなものなのだと何度も言い聞かせてきた。だって私には、頑張りたいことがあるから。それに、ずっとそうだったから。いいなと思っても、報われたことなんて一度もなかったから。
雪のように溶けてしまえば、あったのかなかったのか分からないものだから。
だからいつもやるように、気持ちにそっと水をかけて溶かしていこうとした。
靴下に冷たい水分が浸透していく。
そこからしばらく動けなかった。
「かわいい」
そう言われて、胸がきゅうとなる。
あなたが私を思ってくれるのが嬉しい。
でも私は、今までたくさん期待をして、たくさん虚しくなってきたの。
だからあなたの言葉にも、なんてことないフリをして、鈍感で純粋な女の子を演じるの。
たとえ胸の奥が泣いていても、期待をするのは諦めたの。
光と闇の間で、私はゆらゆら揺れている。けれど何とかやり過ごそうと、ついついいつも光の方へと歩んでしまう。そうして明るく笑う。
迎えに行かなければ。
闇の中に押し込んで、ずっと隠してきた自分を。本当は、笑いたくないと思っている自分を。
そしていつの日か光り輝く場所で、自分を抱きしめてあげたい。
この曖昧な距離で、手と手の距離をゼロにしてほしいなんて思っている自分に、気づきたくなかった。