私にとっては光だった。
それがどんなに汚れていようと、どんなにいけないことだろうと。
みんな、私に差し伸べられた手を非難する。
おかしい。そもそも助けてくれない人達が、寄って集って偉そうに批判するのだ。
私にとって、この手は変わらない。ずっとずっと、一筋の光なんだ。
あなたは、何ともないと思っているかもしれない。
でも私は、あなたがそっとあの時の記憶を辿っていくのを、切ない気持ちで見つめているの。あなたの隣に、あなたの大切な人がいないことが、すごくすごく悲しいの。
それなのにあなたは、昔見つけられなかったことや知らなかったものを見て、嬉しそうに笑うのよね。
だからほんの少し、私の心が暖かくなる。でも切ない気持ちはなくならないから。
あなたの背中が、哀愁をそそるのよ。
あんなに大好きだったのに
あんなに分かり合えていたのに
あんなに、笑っていたのに
何を間違えてしまったのだろう。
けれどももう、過去のこと。
眩しく懐かしく感じる、夢のようなもの。
向こうで母親とその友達が穏やかに談笑しているのを、まだ幼かった私はキッチンに置いてある小さな椅子から眺めていた。母の友達とは何度か会ったことがあるが、その度にああして二人で話し込んでいるので、仲間はずれにされたようでつまらない。
ふと、台に置いてある紅茶が入った透明なポットに目がいく。立ち上がってのぞき込んでみると、底に溜まった茶葉がガラスで屈折して見えた。そっと蓋を持ち上げて、紅茶の香りを嗅ぐ。すっきりとしているが、少しほろ苦い香りがした。不思議な気持ちで蓋を閉じて、今度はそろそろとポットを持ち上げてみる。ポットは重くて、落としてしまわないか不安になった。
そっと横に振ってみると、微かに茶葉が踊った。もう一度、今度は少し大きく振ってみる。それに合わせてふわりと茶葉が踊る。
それに見とれていたら、居間の方からパタパタとスリッパの滑る音がして、慌ててポットを元に戻した。
母が、「ごめんね、ポット忘れちゃった」と呟きながら居間に戻っていく。
「あれ、なんだか味濃くなってない?」
「そうね、美味しくなってる」
なぜかは分からないけど、振ったおかげかと考えたらちょっと嬉しくなった。
大丈夫だよね。
心から強く望めば、きっといつか会えるよね。
だって空はどこまでも続いているんだもの。
待ってて。私、必ず会いに行くから。