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9/22/2023, 10:57:41 AM

「…じゃあ、お願いします」
遺族である母親に、亡くなった△△さんの部屋へと案内される。
扉を開くと、あちこちから色々な声が聞こえた。
入ってすぐの右側にあるクローゼットには制服が掛けられており、そこからはくすくすとさざめき笑う声と、"へーき、へーき"と静かに囁く声が聞こえた。
勉強机の上に置かれた教科書類からは、"何で、これしかしてくれないの"という声が聞こえた。
机の横に置かれたカバンにそっと触れると、"あと何を受け止めればいいんだろう"という声が聞こえた。
最後にベッドに近づく。
ほんの少し指で触れた時、あまりにたくさんの声が頭に流れ込んできて、キィーンと、耳鳴りがした。
"もう嫌だもう嫌だ" "何で私がこんな目に" "誰か助けてよ" "何がいけなかったの"
耳を塞いで、ゆっくり呼吸をする。
"どうして、世界はこんなに苦しいの?"
大丈夫。大事な声は全て聞き取った。
伝えなくては。私の仕事は、亡くなった人の遺品からその人の声を聞く、『声媒師』だ。

9/19/2023, 12:32:09 PM

時間よ止まれ。
このまま。幸せなまま。楽しいまま。
誰も何も欠けることなく。
あの人達に、愚かだと言われようと、嫌われようと、かまわないから。その方が、ずっとましだから。
お願いだから、時間よ止まれ。

9/18/2023, 10:49:49 AM

夜の闇の中、きらきらと輝く明かり。その景色はさながら、電飾の海を眺めているようで。どこか知らない別世界に来たような気分になる。
CMなどで聴いたことのある会社や企業の本社と見られるビルの看板。近未来を感じるマンションの青い光。本当に存在した109のピンクネオン。
物理的にも心理的にも、眩しかった。

9/17/2023, 11:43:33 AM

私だけが知っている花畑がある。
花畑を、荒らされたこともあった。
何とかやり過ごすために、自分で花を間引きすることもあった。そうしていたらいつの間にか、花畑の存在を忘れていた。
久しぶりに帰ってみたら、随分とひどい有様だった。でもそれが私には、どうしようもなく愛おしく、大切な景色に見えた。
いつか、ここを美しいと言ってくれる人に、案内してみたい。

9/14/2023, 11:17:29 PM

幸せでした。
貴方と出会えて、貴方の側で貴方を支えることができて。
もし先に私が死んでしまっても、悔いはなかったんです。貴方のためにこの命が燃え尽きることは、本望ですから。
でも、貴方はそれを許さなかった。ご自分の命を燃え尽かせた。
何で、燃え尽きても良い命が残り、燃え尽きてはいけない、燃え尽きてほしくない命が消えてしまうのでしょうか。

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