「…じゃあ、お願いします」
遺族である母親に、亡くなった△△さんの部屋へと案内される。
扉を開くと、あちこちから色々な声が聞こえた。
入ってすぐの右側にあるクローゼットには制服が掛けられており、そこからはくすくすとさざめき笑う声と、"へーき、へーき"と静かに囁く声が聞こえた。
勉強机の上に置かれた教科書類からは、"何で、これしかしてくれないの"という声が聞こえた。
机の横に置かれたカバンにそっと触れると、"あと何を受け止めればいいんだろう"という声が聞こえた。
最後にベッドに近づく。
ほんの少し指で触れた時、あまりにたくさんの声が頭に流れ込んできて、キィーンと、耳鳴りがした。
"もう嫌だもう嫌だ" "何で私がこんな目に" "誰か助けてよ" "何がいけなかったの"
耳を塞いで、ゆっくり呼吸をする。
"どうして、世界はこんなに苦しいの?"
大丈夫。大事な声は全て聞き取った。
伝えなくては。私の仕事は、亡くなった人の遺品からその人の声を聞く、『声媒師』だ。
9/22/2023, 10:57:41 AM