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6/26/2023, 12:50:04 PM

君と、最後に会った日。
君は棺桶の中で眠っていた。お葬式の最後に火葬場の前でお別れをしたのが、君との記憶で一番新しいもの。あの時のことは正直…あまり覚えてないかな。
唯一覚えてるのが、外で待ってたら花壇の植え込みに咲いてた椿の花が、ぼとんと落ちたこと。その時何でだか、もう君はいなくなってしまったんだって実感して大号泣したの。
椿。椿。
今どこにいるの?どこにいなくなっちゃったの?
私がこれから生きて生きて生き抜いたら、どこかで会うことはできますか?また巡り会ったら最後まで会って、また次も巡り会って最後まで会って。
そうやって、椿が私にくれたものを返していきたいな。
でもきっと返しきれないんだろうな。

6/25/2023, 12:18:17 PM

「こんにちは、サンカヨウさん」
「あら、珍しいわね。雨が降ったら私は透明になるから、中々気づいてくれる方がいないのに」
「いいえ。分かりましたよ」
ゆずの木が、葉をさわさわと揺らした。
「あなた、ずっとずっとここにいるけれど、どうして今になって私に話しかけてきたの?今までそんなことなかったのに」
「すいません。僕、明日切られてしまうんです。古くなって実も実らないので。だから、思い出づくりみたいなものです」
「…あなたいくつ?」
「木に年齢を尋ねてもしょうがないですよ。まあでも、サンカヨウさんがここに生えてくる前からいます。他の植物の方には内緒ですよ?」
暗に、自分が彼にとって特別な存在であるということを言ったのか。
「…あなた、私のこと好きなの?」
「流石サンカヨウさん。よくお分かりで」
「やめときなさい。私、こう見えて大胆なんだから」
「おや、そうなんですか?どうして?僕にはとっても繊細に見えるのに」
この木は今まで何を見てきたのだろう。
「…私は透けるでしょう。それが他の植物にとっては大胆なのよ。声をかけてきた植物みんな、最後にはそう言ってたわ」
さわさわとゆずの木が笑う。
「それは他の植物達が言っていることでしょう?僕、あなたが生えてきた時から知ってるんですよ?あなたは繊細で優しい、綺麗な花です。サンカヨウさんが、雨に降られて透明な雨色に染まるところ、僕すごく好きです」
意外と詩人なのね、と口を開こうとしたら、どやどやと人間の男達がやってきた。「明日は大雨が降る」とか色々話している。
ゆずの木は、泣き笑いみたいな音をたてた。
「…すいません。今日になったみたいです」
大きくて重そうな刃のついた機械を持って、男達が木を囲む。しばらくしてから、耳が壊れるくらいのうるさい音が響いた。
私、明日もまた綺麗な雨色に染まるわ。今日よりもっと、綺麗に染まるわ。
だけど。
「…そんなこと、言われたの、初めてよ」
サンカヨウがぽつりと言えたのは、それだけだった。

6/24/2023, 10:32:24 AM

1年後、私は何をしているんだろう。
大切な何かを見つけるだろうか。
人間として大きくなれているだろうか。
でも、絶対に考えることをやめないはずだから。
きっと、【私】をつくってくれるものを選んでる。

6/23/2023, 11:15:39 AM

子供の頃に、私は大きな傷を負ってしまった。
痛くて痛くて、ずっと泣いていた。でも、誰も気づいてくれなかった。
そのまま大人になっていくにつれて、あの時どこかに、成長するためのピースを落としてきてしまったのかもしれないと、考えるようになった。でも落としたものを見つけるなんてできないし、複製するなんてこともできない。だから見ないふりをした。その時、きっとたぶんもう一つのピースを落としてしまったのだと思う。
今も、時々歯抜けの穴から子供の私が見え隠れする。

6/22/2023, 10:49:44 AM

朝起きて日光を浴びる。
朝食を食べて、若干ばたばたしながら最寄り駅へ向かう。
昼食には、ちょっと贅沢をしてコンビニの高くて美味しい飲み物を買う。
夕方、西日の中で眠気と戦いながら、最寄り駅を寝過ごしてしまわないよう気をつける。
まだ、貴方を喪ってしまった悲しみは癒えないけれど。
日々日常を繰り返していくうちに、ようやく分かってきた。
強くなるとは、これを何百回も何千回も何万回も繰り返していくことなのだと。

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