ぜむ

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7/3/2023, 1:52:39 PM

あるところに、毎日山道を歩いている人がいました。
晴れの日も、曇りの日も、雨の日も。
毎日決まった時間に歩いていました。

とある雨の日、その人はスキップで道を進んでいました。水溜まりがあるにも関わらずバシャバシャと、しかしカッパを着た背は楽しげでした。

何があるんだろうと不思議に思った私は、その人のあとをついていきました。

雨足が強くなる中必死に追いかけると、カッパを着た人は、崖の前に立っていました。

そして振り返ると「ずっと私のことを見ていたでしょ。変わった行動をすれば、尾行してくれると思ったんだよ」と言いました。雨音で気が付かれないかと思っていましたが、こんな雨の中に山を登る人は他にいないようです。まんまとスキップに騙されてついて行ってしまいました。

「私のことをどこまで知っているかなんて関係ないよね。」そう言ったカッパを着た人は、スキップで私の方に近づきます。

なにか違和感を感じます。近づかれて分かりましたが、女であるにもけど変わらず、カッパを着た背格好は恰幅が良いのです。これはなにかあると思い、後退ろうとしましたが動けません。いつの間にか目の前にいて抱きつかれていました。そして、グサッと後ろから何かで刺されたようです。

「どこまで知ってるかなんて関係ないよね」という声がかすかに聞こえます。私は彼女のことを毎日見ている以上のことを知りません。人を刺すなんて。
助けを呼びたいですが、この雨の中ではきっと人は通らないでしょう。何度も痛みを感じ、やがて立っていることもできなくなると、彼女は私から離れていきました。

スキップをしていたのは、やっと私を殺せると思ったからでしょうか。彼女は去る時も再び私の元に来る時も、軽い足音でした。ゴロゴロという音も聞こえます。

「よいしょ」という掛け声とともに引きずられる体。
ここの場所を考えれば目を開けずとも分かります。崖から落とされるのでしょう。

浮遊感。

もはや痛みはわかりません。
最後に力を振り絞って目を開けると、そこには骨がありました。
そして手放す意識。
もう雨音さえ聞こえません。

誰か知らないこの骨と、私は共に過ごすしかないようです。

#この道の先に

6/22/2023, 9:44:52 AM

赤橙黄緑青藍紫。
「私はねえ、あの藍寄りの青色が好き」と、指を指し君に伝える。
綺麗な色だねと君は言う。
きっと同じ色は見てはいないと思うけど。
私の好きな色と、君の好きな色とは、きっと違うだろうけど。
同じ虹のどこかの色が、お互いに綺麗だと思っている。そのことにふふっとほほが緩む。

5/21/2023, 12:17:31 PM

夏の暑い日、たまたま入った喫茶店のカラフルなクリームソーダを見て、エモいと思った。

普段はエモいの一言で済ませずに感想をまとめているのに、今日はエモいしか思いつかなかった。
何がエモかったんだろう。何に心動かされたんだろう。ただ単にカラフルで可愛いだけじゃない何か、それはなんだろう。


汗ばむ中徒歩で帰宅している最中に、その理由かもしれないものに思い至った。

自分で育てた朝顔で作った色水。

飲めないけれどカラフルな水。
あの、透き通った綺麗な赤や紫の水の美しさよ。

カラフルなクリームソーダに、綺麗な色水への思いを馳せようとしていたのかもしれない。
夏休みに遊んだあの頃の記憶が、蘇る。
あの頃も今と同じように、照りつける日差しに肌を焼かれていた。


#透明な水

5/20/2023, 4:52:13 AM

長い間ご愛好いただき誠にありがとうございました


近所の洋菓子屋さんが閉店した。
おじいちゃんおばあちゃんの2人でやっているお店だった。

初めて行ったのは幼稚園の頃。祖父に手を引かれて、ベビーシューを買いに行った。ベビーシューは小さな私にはぴったりな大きさだった。

次に思い出すのは小学生の頃。そのお店は同級生のおうちで、お店のおじいちゃんおばあちゃんは、同級生のおじいちゃんとおばあちゃんだったのだ。近所だから一緒に遊ぶことが多くて、そのお店から同級生が出てきたときはとてもびっくりした。

歯が抜けて永久歯が生えてくるようになると、私は歯医者を嫌がった。今考えれば虫歯じゃなくて定期検診なんだから、全然痛くないんだけど、音が嫌だった。行きたくないと駄々をこねる私に、お母さんはその洋菓子屋さんに連れて行ってくれた。ご褒美には歯が変な感じでも食べられるプリン。昔ながらの、ほろ苦いカラメルと固いプリンは、とても大好きだった。プリンのためなら歯医者もちょっと頑張れた。

中学生になると、部活が忙しくなってあまり行かなくなった。それでもたまに家族が買ってきてくれたベビーシューが冷蔵庫に入っていることがあった。部活で疲れた私には1口サイズがちょうど良すぎて、たくさん食べすぎてよく怒られた。

社会人。
一旦地元を出たものの、祖父母の介護のために地元に帰ってきた。思い出すのはあのベビーシューとプリン。食が細くなってしまった祖父母に、私はベビーシューならいいのではと思い、数年ぶりに洋菓子屋さんへ足を運ぶ。私には固いプリン。どこもかしこもなめらかで口溶けの良いプリンだけど、私は卵たまごした固いプリンが食べたかった。

変わらないお店の場所。ショーケースに並んだ商品も同じ。店員さんもおじいちゃんとおばあちゃんだけ。何も変わらないんだけど。
「プリン1つと、ベビーシュー1つでいくらだ?」
あぁ、同級生のおじいちゃんとおばあちゃんだから、私の祖父母とそんなに変わらない年齢なんだ。客である私に値段の計算を求める姿を見て、当たり前の事実に気がつく。

それからの私は足しげく通った。値札と違う金額を言う2人とそれを訂正する私、お店の隅に置かれるようになったシルバーカー、どれも自分の祖父母を見ているようで辛かった。でもベビーシューもプリンも味は変わらなかった。とても美味しかった。

そして今日。
閉店の貼り紙を見て、呆然と立ちつくす私。
最後にプリン、もう1回食べたかったな。


#突然の別れ

5/18/2023, 1:54:47 AM

夜。
私は夜が好きじゃない。
小さい頃はこの暗闇に何か隠れているんじゃないかって思って怖かった。今は私が闇に飲み込まれるんじゃないかって怖い。私以外を認知させない闇は孤独だ。

夜でも世界がキラキラしていてほしくて、水商売もしたけれど、ダメだった。明るすぎて、その明るさがない時がしんどすぎる。毎日キラキラできるほど私は強くなかった。

SNSのタイムラインも寝静まる真夜中。今夜もみんなの「寝れない」「睡眠失敗した」に、私だけじゃないと安堵する。
だめだこりゃ。コンビニ行って酒でも買おう。
私にはこのクソみたいな寂しさと共に生きていく覚悟が決められない。


#真夜中

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