あるところに、毎日山道を歩いている人がいました。
晴れの日も、曇りの日も、雨の日も。
毎日決まった時間に歩いていました。
とある雨の日、その人はスキップで道を進んでいました。水溜まりがあるにも関わらずバシャバシャと、しかしカッパを着た背は楽しげでした。
何があるんだろうと不思議に思った私は、その人のあとをついていきました。
雨足が強くなる中必死に追いかけると、カッパを着た人は、崖の前に立っていました。
そして振り返ると「ずっと私のことを見ていたでしょ。変わった行動をすれば、尾行してくれると思ったんだよ」と言いました。雨音で気が付かれないかと思っていましたが、こんな雨の中に山を登る人は他にいないようです。まんまとスキップに騙されてついて行ってしまいました。
「私のことをどこまで知っているかなんて関係ないよね。」そう言ったカッパを着た人は、スキップで私の方に近づきます。
なにか違和感を感じます。近づかれて分かりましたが、女であるにもけど変わらず、カッパを着た背格好は恰幅が良いのです。これはなにかあると思い、後退ろうとしましたが動けません。いつの間にか目の前にいて抱きつかれていました。そして、グサッと後ろから何かで刺されたようです。
「どこまで知ってるかなんて関係ないよね」という声がかすかに聞こえます。私は彼女のことを毎日見ている以上のことを知りません。人を刺すなんて。
助けを呼びたいですが、この雨の中ではきっと人は通らないでしょう。何度も痛みを感じ、やがて立っていることもできなくなると、彼女は私から離れていきました。
スキップをしていたのは、やっと私を殺せると思ったからでしょうか。彼女は去る時も再び私の元に来る時も、軽い足音でした。ゴロゴロという音も聞こえます。
「よいしょ」という掛け声とともに引きずられる体。
ここの場所を考えれば目を開けずとも分かります。崖から落とされるのでしょう。
浮遊感。
もはや痛みはわかりません。
最後に力を振り絞って目を開けると、そこには骨がありました。
そして手放す意識。
もう雨音さえ聞こえません。
誰か知らないこの骨と、私は共に過ごすしかないようです。
#この道の先に
7/3/2023, 1:52:39 PM