いいなぁ。あの子は。
高校は県内一の進学校、スポーツで推薦も来てたらしい。しかもモテる。
可愛くて、優しくて、勉強ができて、運動ができて。
私にはないもの、ぜーんぶ持ってる。
全部欲しい。
私にはないもの、あったら最高なもの。全部全部、私のものにしたい。
お母さんに一度、ねだったことがあった。
あの子の外見も、性格も、才能も。全部買って、私にちょうだい?
あの時お母さんは、こう言った。
「外見も性格はあなたしか持っていないものがある。才能も、あなたしか持っていないものがある。それでも欲しいのなら、掴みなさい。ねだるのではなく、努力で」
私にないもの。それはねだるのではなく、掴むもの。
スポーツは嫌いだ。疲れるし、楽しくないし、心がリフレッシュされたなんて、思ってこともない。でも私は、6年間水泳を習い続けた。
好きじゃないのに。水泳なんか、好きじゃない。わざわざ息のできない水の中に潜って、全身を動かして体をフルに使う。しんどいったらない。
それなのに、なぜ続けたのだろう。プライド?やっぱり楽しかった?
うん、多分楽しかった。すごく辛いけど、泳ぐことが楽しかった。好きじゃなかったのに、好きになっていた。
大抵そういうものだろう。好きじゃないものでも、続けていれば好きになる。そうやって好きが増えていく。
好きじゃないのに、好き。そんな展開がこの先もたくさんあればいいのに。
雨は、世界のどこかで降り続いている。
それは雨の多い地域か、少ない地域か。好かれる時期か、嫌われる時期か。命を生かすのか、絶やすのか。
ところにより雨は、その価値を変える。
人間もそうなのだろう。
自分に合った場所、合わなかった場所。自分を活かせる場所、活かせない場所。幸せになれる場所、なれない場所。ところにより人は、その意味を変える。
私も、君も、どこかのあの子も、自分が最も輝ける場所を欲している。今も空を徘徊する、雨雲のように。
私の特別な存在ってなんだろう。家族?友達?恋人?宝物?神様?それとも自分?
きっと、答えは一つじゃない。全てが特別な存在なのだろう。この世にたった一つの、果てしなく低い確率を潜り抜けて生まれてきた私たち。そして、そこからさらに低い確率の中、出会えたこと。そうやって、私たちは互いに互いを「特別な存在」として認知する。
私の特別なもの、特別な存在。決して離したりしない。見捨てはしない。
なぜならそれは、特別なものだから。
バカみたいな夢を見るな。そんなもの捨ててしまえ。
なんて言ってくるやつに一言申したい。
他人にバカみたいだと言われる筋合いはない。なりたいものはなりたいし、したいことはしたいのだ。それがどんなに無謀でも、それが私の夢だから。
そんな反対を押し切って、私は前に進みたい。夢を否定してくるやつに、たった一つ、言えること。
バカみたいだと、他人の夢を否定して自分の夢まで捨ててしまう奴よりも、自分の夢に堂々と立ち向かっていける私の方が、賢く人生を送っている。