ーみつめられると 題名保存
ーないものねだり お題保存
生まれた時からずっと一緒の可愛い双子の妹。
何をするにもどこに行くにも一緒だった。
お互いのことはお互いが一番よく知っていた。
だけど、妹がただ一つ知らないことがある。
それは私が嘘つきだということ。
いつからだろう。
素直な気持ちを隠すようになったのは。
嘘で自分を偽るようになったのは。
自分のことが嫌いになったのは。
可愛い妹の眩しい笑顔を見ながら、過去を辿る。
そうだ、あれは5歳の誕生日。
いちごがたっぷりの白いショートケーキ。チョコのプレートにはあの頃好きだった幼児向けアニメのピンク色の女の子。
「あなたたちが好きなものでいっぱいにしたのよ」
そう言って笑う母は、妹と同じ笑顔だった。
「おかあさん ありがとぉ!」
嬉しいね、と言わんばかりの顔で私を見る妹。
その笑顔を壊さないように笑って見せた。
チョコレートケーキが好きだった。
水色の女の子が好きだった。
いちごたっぷりのショートケーキも、ピンク色の女の子も好きじゃないのに。
そんな気持ちを隠して精一杯笑った。
「これだぁいすきなんだぁ!」
あれから私は嘘つきになった。
ずっとずっと全てを隠して生きてきた。
それは今も変わらない。
舞い散る桜より紅くした頬を隠しながら、私の好きな人は言った。
「いつか言おうと思ってたけど、言い出せなくて…結局最後になっちまった。お前のことがずっと好きだった。俺と付き合ってほしい。」
私もずっと好きだった。あなたと手を繋いで歩めたら、と何度も考えていた。
だけど、それは妹も同じだった。
彼を見るその瞳は、あの頃と同じキラキラしていた。
だから私は言うんだ。
「ごめんね…あなたのこと好きじゃない」
彼に背を向け歩き出す。
一歩足を踏み出すごとに頬に伝う雫。
好きじゃない。好きじゃないのに。
「…っ……大好きなのに…っ」
溢れ出す気持ちを擦り紅くなった瞳は、大嫌いないちごと同じ色をしていた。
ー好きじゃないのに FIN.
『…の地方はところにより雨が降るでしょう。
お出かけの際は傘のご準備を!』
何気なくつけたTVから流れる女性アナウンサーの声。
人懐っこい笑顔と、その華奢な姿からは想像できないほどの大食いキャラで新人時代から人気だった。
そんな彼女は最近有名な俳優と結婚し、さらに話題の人となっていた。
「…人生勝ち組じゃん」
ぽつり、と口から出た妬みはカーテンを閉めたままの暗い部屋に響いて消えた。
嫌な考えを上書きするように、遅い朝ごはんを準備する。空腹は人をマイナスにさせる。何かで読んだその一文の出どころを思い出しながら、食パンの袋に手を伸ばす。が、その袋が手に触れることはなかった。
「うぇ…昨日食べたのが最後だっけ…」
記憶を辿りながら、過去の自分を恨む。そんなことをしていても空腹は治らないが。
「外出たくないな…だるい…でも腹へった…」
数分ほどそんな葛藤を繰り返したあと、ゆっくりと身体を動かしカーテンを開ける。
自分の気持ちとは正反対の、晴れ晴れとした空が広がっていた。
「こっちは降ってないのか」
それなら少しは気が楽だ。すぐにまともな服に着替え、マスクをつける。
財布と鍵を持ち、履き慣れた靴を履く。
少し重い扉を開け、晴天の空の下に出た。
瞬間、ポツポツ、と何かが肩に当たる。その正体を知るために上を見上げると、顔面に大量の水が降ってくる。
「っはぁ!?」
それは空から降ってくるもの、雨だった。
急いで玄関前に戻り雨を凌ぐ。
ビショビショになったマスクを取りながら、周りを見渡す。空は変わらず晴天のまま。そして通りを歩く人たちは焦った様子もなく、目的地へ足を進める。
「どうなってんだ…」
通り雨にしてはすぐに止み、考えられない。だからと言って、どこからか水をかけられたわけでもない。
まさか、と馬鹿げた妄想を消し去るためにもう一度屋根から出てみる。
結果は先ほどと変わらず、雨が降ってきた。
自分の真上から。
ふと、女性アナウンサーの言葉を思い出す。
「ところにより雨って…マジかよ…」
笑うしかない状況下で取る行動は一つ。
「帰って寝よ」
ーところにより雨 FIN.