張り付くような重苦しい空気。
早起きして巻いたのが嘘かのように、ストンと落ちた髪。
電車は人で溢れかえって、皆が持つ傘から落ちる雫が靴をじんわり湿らせていく。
はっきりと言おう。私は雨が嫌いだ。
楽しみにしていた旅行も雨で台無しになった。
天気予報を信じ傘を持たずに遊びに行って、無事にずぶ濡れになった。
雨天決行としていたフェスも、豪雨により中止になった。
大荷物の時に限って必ずといっていいほど振る雨。
私の人生の大半が雨によって台無しにされている。
「朝からこの世の恨みを凝縮したような顔してどうした?」
会って早々思いつかないような言葉の挨拶を投げかける彼。
「雨ってやっぱ嫌いだなぁって思ってただけだよ、おはよ」
こんな最悪な気分を一気に晴らしてくれるのは、この人だけだ。
ドキドキと弾む胸を無視しながら、落ちた髪を弄る。
「んだよそれ、俺は雨好きだけどなぁ、楽だし?」
いつもは自転車で学校に来る彼は、こうして雨の日だけ同じ電車に乗る。それだけで雨が好きと言えるなんて、きっと晴れた人生だったのだろう。
「え〜…」
「いつもより早くお前に会えるしな」
「……え?」
「お、着いた。降りるぞ〜」
当たり前のように私の手を取り、波に合わせて降車する。ホームは電車以上の人で湿気と圧でどうにかなりそうだ。
ただ、今はそんなことも気にならない。彼の少し冷たい手に反して、どんどん上がっていく私の体温と心拍。
嫌いって言ってごめん、雨。
──雨と君 Fin.
9/7/2025, 9:37:12 PM