ミキミヤ

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9/7/2025, 9:47:37 AM

【誰もいない教室】

早朝、両親の喧嘩する声で目を覚ました私は、のそりとベッドから起き上がった。どうやら父がまた朝帰りしたらしい。玄関の方から、言い合う声が聞こえる。こんなの、いつものことと言えばいつものことなのだけど、何だか今朝は心がざわついて、落ち着かない気持ちになった。だから、さっさと支度して学校へ行ってしまおうと思った。

飽きずにずっと言い合っている両親の声をBGMに朝食を食べ、歯磨きをし、制服に着替えた。いつものリュックを背負って、玄関に向かい、両親のわきをすり抜けて靴を履き、家を出る。一応「行ってきます」と言ったけれど、両親は少し私の方を見ただけで、声は返ってこなかった。

早い時間のせいか、バスの中はいつもより空いていた。
うとうとしながらバスに揺られること15分。学校の最寄りのバス停に着いて、バスを降りた。
いつもは同じ方向へ向かう生徒で賑やかな道も、今日は静かだ。そういえば、こんな早くにこの道を歩いたことはなかったな、と気づく。
校門に着くと、門の脇に立っていた守衛さんが、驚いた顔をした。
「おはよう。ずいぶん早いね。ついさっき門を開けたところだよ」
「おはようございます。何だか早くに目が覚めちゃって。それじゃあもしかして一番乗りですか?」
私が訊くと、守衛さんは「そうだねえ」と笑った。

校門を入り、校舎に入り、誰もいない教室へと向かう。生活指導の先生とすれ違って挨拶した以外には、誰とも会わなかった。
自分の席に着いて、教室全体を見渡してみる。
早朝の誰もいない教室は、異世界みたいだ。静かで優しい光が差し込んで、ちょっとだけさびしい。でも、そのさびしさが、ざわついた心を落ち着けてくれる気がした。

私はモヤモヤをため息にして吐き出して、机に突っ伏した。朝練の生徒がやってきて少しずつ賑やかになっていく外の音を聞いていると、心がほわほわとして、安心する。そうしたら眠くなってきた。早朝、誰もいない教室で微睡む。たまにはこんな朝もいいなあ、と思った。


「おはよう、起きろー」
仲の良い友達の声で私は目を覚ました。
顔を上げれば、いつもの賑やかな教室。時計は朝のホームルーム直前の時刻をさしていた。
「おはよう」
私は笑顔で挨拶を返した。

9/5/2025, 8:54:49 AM

【言い出せなかった「」】

ごめんなさい。言い出せなかったの。あなたがかばってくれたから。

何か頼んだわけでもないのに、わたしはあなたに何もしてあげられてないのに、あなたはわたしをかばってくれた。いつか言ってた「君の為なら何でもできるよ」を証明するみたいに。

わたしはそれに甘えたの。あなたがわたしのためにやってくれているのに、台無しにするのはいけないわ、って自分にたくさん言い聞かせて。
ついにわたしは言い出さなかった。

そして、あなたは今日、わたしの代わりに罰をうけることになった。もう二度と、あなたとわたしが会うことはない。

ああ、ごめんなさい。わたしったら、今になって後悔してるの。
わたし、やっぱり言い出せばよかったわ。
「あの子はわたしが殺しました」って。

8/21/2025, 9:22:55 AM

【きっと忘れない】

私の中にいるあなたの、表情や声や仕草がおぼろげになっても、私はきっと忘れない。
あなたが私を愛してくれたこと。
私があなたを愛していること。

遠くへ逝ってしまったあなたを、思うことはやめたくない。
たまに名前を呼びたい。
返事は返ってこないってわかってる。
それでも、どこかであなたが聞いてくれてるって、信じたいから、私は呼ぶよ。

ねえ、あなた。
愛してくれてありがとう。
大好き。愛してるよ。

8/20/2025, 8:55:37 AM

【なぜ泣くの?と聞かれたから】

「なぜ泣くの?」とあなたに聞かれたから、
私は「泣いてないわ」って答えたの。
だって、涙なんて一筋も出ちゃいないじゃない。
どうして泣いてるなんてあなたは思ったのかしら。
不思議で不愉快だわ。
そしたらあなたは「強がらないで。話聞くよ」って言ってきた。
はあ?何言ってるのかしら。
私、強がってなんかないわ。
だって、これっぽっちも悲しくないもの。
私は平気。平気なのよ。

だから、その心配そうな優しい顔をやめてよ。
頭を撫でるのもよして。
なぜだか寄りかかりたくなっちゃうから、お願いだから、やめて。
私、一人で立てる女でいたいのよ。
だから、ねえってば。

8/6/2025, 8:02:33 AM

【泡になりたい】

あたしはブクブクのあわのおふろが大すき。
バシャバシャ手で水をたたけば、あわがいっぱいあらわれて、ふわふわと水の上をおよぐ。
おかあさんが、水の上のあわをこんもりすくって、あたしの手にのせてくれる。
あたしはそれをおもいっきりバッて上へなげてみた。そしたら、おっきなあわのかたまりはふわっとすぐに水の上におちて、そのあとに小さなあわがふわふわと空中をおどった。
ふわふわおよいで、ふわふわおどって。
あわってなんだかたのしそう。

「あたしもあわになってみたぁい!きっとたのしいよ!」
あたしがいったら、おかあさんはフフってわらって、
「確かに楽しいかもしれないわね。でもお母さん、あなたが泡になって人魚姫みたいに消えちゃったら悲しいわ」
って言って、あたしをぎゅってしてくれた。

そっか、あわになったらいつかきえちゃうんだ。
それはやだな。だって、こうやっておかあさんとぎゅってできなくなっちゃうもん。
「じゃああわになるのやめる!」
あたしがげんきにいうと、おかあさんはまたわらって、あわあわのあたしのあたまをやさしくなでてくれた。

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