ミキミヤ

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【誰もいない教室】

早朝、両親の喧嘩する声で目を覚ました私は、のそりとベッドから起き上がった。どうやら父がまた朝帰りしたらしい。玄関の方から、言い合う声が聞こえる。こんなの、いつものことと言えばいつものことなのだけど、何だか今朝は心がざわついて、落ち着かない気持ちになった。だから、さっさと支度して学校へ行ってしまおうと思った。

飽きずにずっと言い合っている両親の声をBGMに朝食を食べ、歯磨きをし、制服に着替えた。いつものリュックを背負って、玄関に向かい、両親のわきをすり抜けて靴を履き、家を出る。一応「行ってきます」と言ったけれど、両親は少し私の方を見ただけで、声は返ってこなかった。

早い時間のせいか、バスの中はいつもより空いていた。
うとうとしながらバスに揺られること15分。学校の最寄りのバス停に着いて、バスを降りた。
いつもは同じ方向へ向かう生徒で賑やかな道も、今日は静かだ。そういえば、こんな早くにこの道を歩いたことはなかったな、と気づく。
校門に着くと、門の脇に立っていた守衛さんが、驚いた顔をした。
「おはよう。ずいぶん早いね。ついさっき門を開けたところだよ」
「おはようございます。何だか早くに目が覚めちゃって。それじゃあもしかして一番乗りですか?」
私が訊くと、守衛さんは「そうだねえ」と笑った。

校門を入り、校舎に入り、誰もいない教室へと向かう。生活指導の先生とすれ違って挨拶した以外には、誰とも会わなかった。
自分の席に着いて、教室全体を見渡してみる。
早朝の誰もいない教室は、異世界みたいだ。静かで優しい光が差し込んで、ちょっとだけさびしい。でも、そのさびしさが、ざわついた心を落ち着けてくれる気がした。

私はモヤモヤをため息にして吐き出して、机に突っ伏した。朝練の生徒がやってきて少しずつ賑やかになっていく外の音を聞いていると、心がほわほわとして、安心する。そうしたら眠くなってきた。早朝、誰もいない教室で微睡む。たまにはこんな朝もいいなあ、と思った。


「おはよう、起きろー」
仲の良い友達の声で私は目を覚ました。
顔を上げれば、いつもの賑やかな教室。時計は朝のホームルーム直前の時刻をさしていた。
「おはよう」
私は笑顔で挨拶を返した。

9/7/2025, 9:47:37 AM