そっと包み込んで 後日書きます
Sunrise 後日書きます
ふと空を見上げたら、飛行機雲があった。空を飛ぶ飛行機がスーッと白い線を引いていく。置き去りにされた白い線は端からぼやけて、やがて空色に溶けていく。
それを見て、何となく『記憶みたいだな』と思った。鮮烈だったあなたの記憶は、今やほわほわとぼやけて、私の中で溶けようとしている。それであなたと過ごした日々がなくなるわけではないし、溶けた記憶だって私の一部になってきっと一緒に生きていけるはずだ。それでも、あなたを鮮やかに思い出せなくなってしまったことに、どうしようもなく寂しさを覚えてしまう。
途切れた飛行機雲が空に溶ける。私はそれを、泣きそうな気持ちで見ていた。
どうしてもやめられないことってあるよね。
私にとって、それはオタクでいること。
初めてオタクに目覚めたのはハリー・◯ッターだったのだけど、それからずっと何かしらのオタクをやってる気がする。
もちろん、今でもハリ◯タオタクではある。あと、アニメも好き。一時期、急にとある声優さんにハマって何年か追っかけてたこともあるし、カードゲームのオタクやってたこともあるし、最近は某アイドルが気になってるし……。
何かにハマって没頭してその世界にどっぷり浸かるってのが堪らなく好きなのかも。
もうね、『オタクでいること=生きていること』よ。これ全然過言じゃないのよ。
「〇〇オタクやめろ」って言われたら抵抗しつつ最終的に何とかしてやめられる可能性はあるけど、「何かのオタクであることそのものをやめろ」って言われたら、もうどう生きていけばいいのかすらわかんないわ。
どうしてもやめられない。オタクは人生。
(※長めです)
幼い頃、よく見た夢があった。風邪を引いて寝込んだ日、悲しいことがあった日、その夢はやってきた。
夢の中は、私の好きな青い花が咲き誇る丘。そこには必ず1人の女の子がいた。3歳ほどに見えるその子は、名前も知らない、夢以外では出会ったことのない子だった。知らない子のはずなのに、私はこの子が『お姉ちゃん』だと思った。私は一人っ子で姉なんていないのに。成長してその子の年齢を超えてもなお。何故だか、『この子はお姉ちゃんだ』という認識は変わらなかった。
夢の中のお姉ちゃんは、いつも微笑んでいた。現実でつらいことがあって泣く私の頭を撫でて、「大丈夫だよ」と優しく慰めてくれた。
成長するにつれ、その夢を見ることは減っていった。その夢はいつしか、遠い記憶になっていた。
結婚して、新しい命をお腹に授かった頃、久しぶりにその夢を見た。相変わらず『お姉ちゃん』は笑っていて、私はすごく安心したのを覚えている。
その夢を見た翌日、私は母に初めてこの夢の話をした。『お姉ちゃん』のことを初めて聞いた母は、ハッとした顔をした。そして、話してくれた。
私の『お姉ちゃん』の話を。
母の話によると、私を妊娠する3年ほど前、母は一度、そのお腹に命を宿したことがあったという。しかし、その子は訳あって、命を抱えたまま生まれてくることができなかったそうだ。
「その子、女の子だったのよ。もしかしたらずっと家族のことを気にして、そばにいてくれたのかもしれないわね」そう言って笑う母の目は少し潤んでいた。
時は過ぎ、私は臨月を迎えた。その間、お姉ちゃんの夢を見ることはなかった。もしかしてあれが最後だったのかも、と私は少し寂しく思っていた。
そして、やってきた出産の日。私はあり得ないほどの痛みに苦しんだ。陣痛は丸一日続き、私の意識は朦朧としていた。
そして、気づけば、青い花が咲き誇るあの丘に立っていた。夢の中では痛みはなかったけれど、現実で私のお腹の赤ちゃんが大丈夫なのか心配でしょうがなかった。ああ、早く戻らなければ、と狼狽えていた私の前に、お姉ちゃんは現れた。
お姉ちゃんは、いつもと変わらぬ笑顔で、私の手を握り「大丈夫だよ」と言った。繰り返し繰り返し、私が落ち着くまで、そう言ってくれた。
私は次第に落ち着いてきた。お姉ちゃんのお陰だ。お礼を言おうと思って改めてお姉ちゃんの顔を見ると、私は小さな違和感を覚えた。お姉ちゃんの笑顔が何だかいつもより寂しそうな感じがしたのだ。
疑問の視線に気づいたお姉ちゃんは、口を開いた。
「もうヒナタは大人だね。わたしよりずっと大きくなっちゃった」
私は静かにお姉ちゃんの言葉に耳を傾ける。
「もうつらいとき助けてくれる人がたくさんいるね。ヒナタは、強くなったね。
……ヒナタは、もう大丈夫だね」
お姉ちゃんは相変わらず笑っていた。少し寂しそうだったけれど、笑っていた。それなのに、私はすごく泣きたくなった。
お姉ちゃんの言葉は「さようなら」だと、私は直感していた。
最後に私の手をギュッと握って離し、お姉ちゃんは私に手を振った。周囲が白んで、お姉ちゃんの輪郭が曖昧になっていく。きっともう私は目覚め、もう二度とお姉ちゃんには会えないんだろう。
「まって……!」
私はお姉ちゃんに手を伸ばした。さっきまですぐ近くにいたはずなのに、届かない。
「まって、お姉ちゃん……!私、私……!」
お別れが嫌だと言ってはいけないのはわかっていた。だから、せめて伝えたかった。
「私、お姉ちゃんが大好き!今まで、ありがとう……!!」
光の中で遠ざかっていくお姉ちゃんへ、精一杯叫んだ。お姉ちゃんの表情はハッキリと見えなかったけれど、不思議と、優しく笑ってくれたことがわかった。
目を覚ますと、そこは分娩室だった。元気な赤ちゃんの産声が響いている。私の子だ。夫は隣で涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、「やったな、ヒナタ、ありがとう!ありがとう!」と笑っていた。
看護師さんが、赤ちゃんを抱かせてくれた。温かかった。私は静かに涙を流した。