バリッ バリバリッ
踏みしめると、霜柱が割れる音がする。
茶色くて、何も生えてない土。
暖かくなったら、ここに緑が芽吹くなんて、信じられないくらい。
でも、確かに毎年、この茶色に緑は芽吹く。
やがて、世界は色鮮やかに彩られるんだ。
私に見えていないだけで、土の中には、芽吹きのときを待つ生命が存在しているんだろうか。
まだ見ぬ生命に想いを馳せて、私も春を待つ。
覚えてるよ。あの冬の日、絶望した私がひとりぽっちでいた時に駆けつけてくれたこと。ギュって抱きしめてくれたこと。私に「大丈夫」って言ってくれたこと。あの日の温もりは、きっと一生忘れないと思う。
物理的な距離は遠くても、いつも心にあなたを近く感じてる。つらいことがあっても、あの日の温もりが私の背中を押すの。「大丈夫」って声が、俯きそうになる顔を上げさせてくれるの。
あの日、あなたは私のヒーローだったよ。
かっこよくて優しくて楽しい私の親友。
いつもありがとう。大好きだよ。
お化粧って、すごいんだよ。
鏡に映るすっぴんの私はどこにでもいそうな冴えない平たい顔族なんだけど、お化粧したら、平たい顔は少し立体感が出て、控えめだった目も大きく見えて、唇はぷるんって魅力的に輝いて、なんかもう、かわいい!って感じ。
私は私のまま、絶世の美女や美少女には敵わないままだけど、でも、『私、かわいい!』って思えるようになる。お化粧にはそういう力があるの。
お化粧した私は、常に私史上一番にかわいいから、他の人からどう見られようと関係ない。
湧いてくる自信が、背筋を自然と伸ばして、足取りを軽くする。
だから、私はお化粧が好き。化粧映えする自分の顔も好き。
今日も私はお化粧をしてお出かけする。
自信を纏って前を見て。
通っているスイミングで月に一度ある記録測定の日。200m個人メドレー。自己ベストは更新できても、あいつには勝てない。
ここ最近、ずっとそう。昔はあたしが一番だったのに、高学年に上がったあたりからあいつの方が速くなって、勝てなくなっちゃった。
あいつが男であたしが女だから?昔と違って丸みを帯びてきたあたしの身体。それに比べてあいつは角ばってて、筋肉質に見える。その違いが、速さに関係しているの?自分ではどうしようもないそんな違いが記録に関係してるとしたら、何だかとってもやるせない。男女の差なんてつまらないものがあたしとあいつの差を決めるなんて、あたしは嫌だ。
だから、あたしは努力して、あいつを超える。あたしが一番に返り咲いて、男女の差なんて鼻で笑ってやる。そんな思いで、必死に努力してる。
男女差だ、しょうがないって諦めちゃうのは絶対なし。だってそんなの、楽しくないじゃん!
小さい頃は、何でもかんでも冒険だった。いつもの帰り道だって、何かしら新しい発見があって、いつも違う景色みたいに見えていたような気がする。新しいことをするときは、いつもワクワクしてた。
大人になって、見慣れたものばかりの日々になって、周囲はありふれた景色になった。新しいことをするときは、心配ばかり先に立って、ワクワクなんて感じてない。あの頃の冒険心はどこへ行ったのか。
今、私は岐路に立たされていて、新しいことを選び取らなきゃいけないところにいる。やっぱり不安は大きい。でも、あの頃みたいに「さぁ冒険だ!」って一歩踏み出してみたら、ちょっとワクワクできそうな気がする。自分の内側の不安にばかり目を向けないで、周囲の景色を楽しんで、ちょっと冒険、してみようかな。