ミキミヤ

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2/14/2025, 12:42:19 AM

僕は言葉がうまくない。特に、愛情を口にするのは一番苦手な分野だ。だからといって、何も愛情表現できないわけじゃない。言葉以外に伝える方法だってある。それだって照れ臭いけれど、君のことを思えば自然とできてしまうんだ。

例えば、手を繋ぐとき。キュッと君に握られた手を僕はそっと握り返す。
例えば、話すとき。君の話を聴いてる時、君が楽しそうだと、優しい気持ちになって、自然と笑顔になる。
例えば、君が泣くとき。気の利いた言葉は何も言えなくても、君の好きなココアを作って、そばに黙って寄り添って、片肩にもたれかかってくる君を支えるくらいのことはできる。

僕には、こうしてそっと伝えることしかできない。そんな僕に、君は特大の愛をくれる。君は僕に声に出して「愛してる」って言ってくれる。「楽しいね」「ありがとう」って言ってくれる。太陽みたいな笑顔を見せてくれる。僕のささやかな愛の表現をちゃんと受け取って、返してくれるんだ。


僕は君を愛してる。だから今日も、僕はそばにいて、君に伝えたいんだ。少しずつ、そっと。

2/13/2025, 12:29:55 AM

小さな灰色の部屋。窓は1つ。部屋の中心には机、それを挟むように椅子が2つ。俺は、その椅子のうち、窓側に置かれている方に座っている。向かいの椅子には強面の中年男がこちらを睨んでいた。

「お兄さん、『未来の記憶の取扱に関する法律』――所謂『未来記憶法』知ってるよね?」

男――刑事が机に片腕を乗り出して問いかけてくる。

「はい」

俺は静かに答えた。

「だったらさ、お兄さんがしたことが『危険記憶秘匿義務違反』なのわかるでしょ?」
「はい」
「なんでやっちゃったの」

刑事の問いかけに、俺はこうなった経緯を思い出していた。


タイムトラベルの技術が確立され、一般にも提供されるようになって久しい現代。未来旅行はセレブの嗜みとされていた。俺は偶然、旅行会社が企画したキャンペーンで未来旅行に半額で行ける権利に当選して、未来のテーマパーク一泊二日の旅をしてきた。このテーマパークは過去からの旅行者向けに作られていて、未来の人間とはほぼ出会うことがなく安全に旅ができるのが売りだった。未来と言っても20年後の小旅行だったが、見たことのないものが溢れていて、興味深い旅だった。
ただ、俺の旅はそれだけでは終わらなかった。

「お兄さんの旅行プラン、未来のテーマパーク内で2日過ごして帰ってくるだけのものだったのに、どうしてテーマパークから抜け出しちゃったの」
「興味、としか言いようがありません」
「それで、未来の彼女のとこまで行っちゃったわけね。そこで知ったわけだ」
「はい。彼女が重い病にかかっていることを知りました。余命半年だと。それも、今の時代から検診をうけて、適切な治療を受けていたらあそこまで悪化することはなかったと」
「それで、君は帰ってきて彼女に言っちゃったわけだ。『未来で君が大変なことになるから今から病院にいけ』って」

俺は無言で頷いた。刑事はため息を吐いた。

「だって、言わずにいられますか?言えば、彼女はその病を早期発見できて、20年後に余命半年になんてならなくて済むんですよ!彼女を助けることができるのに、言わないなんて、そんなこと……!」
「できなかったんだねえ。でもそれ、いけないことなのよ。人の生死――所謂“運命”ってやつに関わる記憶は秘匿しなければならないって法律で決まってるからね」
「彼女があの病気で死ぬのは運命だから、受け入れろって言うんですか!?一言伝えれば助かるってわかってるのに、それもしないで?そんなの、そんなの、なんて人の心がない――」
「それが法律だからね。それにさ、旅行会社側もそういうトラブルが起こらないようにプラン組んでたよね。お兄さん、そのルール破って未来の人に会いに行っちゃったから、こうなっちゃったわけじゃない」
「自業自得だって言うんですか」
「そうだねえ」

自業自得、そう言われて、それまで熱くなっていた頭が急に冷めて、俺はその場でうなだれた。

「俺は、彼女は、これからどうなるんですか」
「刑としては記憶消去を受けてもらうことになるだろうねえ。君が未来で見た彼女に関する記憶、彼女が君から聞いた未来の記憶、それらを話した時の記憶……それから、今僕らが話してる記憶も、全部消すことになるよ」
「そうしたら、彼女は自分に迫る病の危険に気づかないまま、年をとって、あの病にかかって死ぬんですね。僕も何も知らないまま、彼女のそばにいながら何も気づかず、気づいたときには手遅れで」
「そうだよ」

未来の記憶が蘇る。病床の彼女。『あなたの時代くらいに病院に行っていたら、こうなってなかったんですって。お医者様が言ってたわ』と、悲しそうに話す彼女。彼女は俺に『助けて』とは言わなかった。もう諦めた目をしていた。それが俺には余計に悲しくて。だから、危険を冒してでも、助けたかった。

「“運命”ってなんなんですか。そこまでして守らなきゃならないものなんですか」
「さあなぁ。僕よりずっと上の偉い人たちなら知ってるんだろうけど。僕みたいな末端にはよくわからないよ」

よくわからないまま守られる運命によって、彼女は死へと導かれていくのか。
これ以上の絶望がこの世に存在するだろうか。
ああ、運命なんて、クソ喰らえだ。
目から溢れ出る涙も、喉から勝手に出てくる嗚咽も、何一つ抑えないままに、俺はただ運命を呪うことしかできなかった。

2/11/2025, 11:23:01 PM

コロコロコロコロ転がっていく
グングンどんどんと登れることもあれば、
グルグルすてんとあっという間にどん底に落ちる時もある
クルクルゆっくり進んでいっていつの間にかてっぺんにいることもあれば、
コロコロゆっくり下っていってどん底についてから気づくこともある

たまにお助け鳥がやってきて、ビューンとてっぺんまで飛べることもある
たまに意地悪鳥もやってきて、ヒューッと底まで落とされる

いろんな山と谷を越えて、進んでいく
ココロ、コロコロ、終わりまで

2/11/2025, 12:59:09 AM

私は、何かに祈ったり願ったりということをしたことがない。努力で全て成し遂げてきた。私が祈ったり願ったりするとしたら、それは過去の自分へか、未来の自分へか、そのどちらかしかない。間違っても、神様とかご先祖様とかお星さまとか、実在も怪しかったり叶えてくれるかどうか不確かだったりするものを拝んだりなんてしない。まして、他人に何か願うなんて、一生することはないだろうと思っていた。

そんな私に、最近努力でどうしようもないことが発生してしまった。三上星矢くん。今、私は彼に惹かれている。彼に振り向いてほしくて、彼好みの女性になろうと、徹底的に調査し、努力し、実践してきた。でも、一向に彼は振り向いてくれない。
友達としてはかなり仲良くなった。放課後2人きりで過ごすことも増えた。でも、彼の中で私はどうやら未だに『ただの友達』カテゴリなようなのだ。一度告白したとき「嬉しいよ、ありがとう。でも、僕にとって嘉納さんは友達だから……ごめんね」と言われたときは、雷に撃たれたような衝撃で、それはもうめちゃくちゃに落ち込んだ。でも、すぐに『彼女がいる』とか『好きな人がいる』とかで断られたわけではないことに気づいて、まだチャンスはあるはず!と私は努力を続けることにした。
トライアンドエラー。何度も何度も繰り返し。それでも三上くんとは友達以上になれない。告白ももう三度。全て最初と同じ理由で断られた。

三上くんは私の中でこんなに特別に、輝く星のように見えるのに、彼の中の私は全然そんなことはないらしい。悔しい。悲しい。もう自分でどうにかできる領域ではなくなってる気がする。
ああ、三上くん、どうか私をあなたの特別にしてください――。眠れぬ夜、私は私の星に願って、きゅうと目を閉じた。

2/10/2025, 1:24:31 AM

2人で手を繋ぎながら歩道橋を渡っていたときのこと。下りの階段を下っている途中で、階段の終わりに蹲っているおばあさんを見つけた。何やら立ち上がれずに困っているようだった。転んで足を挫いてしまったのだろうか。通りががる人はそれなりにいたけれど、誰もが彼女を知らんぷりで通り過ぎていく。階段を降りながら、私は小さな葛藤を感じていた。助けた方がいい、声をかけるんだ、と思う私と、断られたら嫌だし、どう助けたらいいかわからないし、やりたくないな、と思う私。私がそんな葛藤をしているときに、隣の彼は動き出した。

「大丈夫ですか?どうしましたか?」

彼は、私の手を離して、おばあさんへ駆け寄っていく。私はそれを呆然と見ていた。私が迷っている間に、彼は助ける決断をしていたんだ。
私もすぐに我に返り、慌てておばあさんのもとへ駆け寄る。

「そこで転んじゃってねえ、立とうとすると足が痛くって。ひとりじゃどうにもならなくてねえ」

おばあさんはそう言った。彼はうんうんとおばあさんの話をきくと、私を振り返って口を開いた。

「なあ、このへんって病院あったっけ?」
「整形外科だよね?今調べる」

スマホを取り出して、近くの整形外科を調べる。いくつかヒットした中で、一番近く、今日開いてる病院はここから徒歩8分の距離だった。

「あったよ。徒歩8分」
「俺、おばあちゃんおぶってくから、アイはおばあちゃんの荷物持ってナビしてもらっていい?」
「うん。わかった」
「おばあちゃんもそれで大丈夫かな?」
「ええ、大丈夫よ。悪いわねえ」

私がおばあさんから荷物を預かって、彼がおばあさんをおぶった。そうして、スマホのマップを頼りに病院まで歩き出した。

10分ほどかかって病院に到着した。病院は空いていた。彼はおばあさんを椅子に座らせ、受付の人に事情を話して戻ってきた。

「おばあちゃん、すぐ診てくれるって。よかったね」

彼はニコッと笑っておばあさんに言った。おばあさんは安堵したのか、彼の笑顔に釣られたように笑った。

少ししておばあさんの名前が呼ばれた。彼はおばあさんを介助する看護師さんを手伝いながら、一緒に診察室へ入っていった。私はここで荷物番だ。

しばらくして、診察室から彼だけ出てきた。

「おばあさんどうだったの?」
「捻挫だったみたい。さっきおうちの人と連絡ついて、迎えに来てくれることになったから、一安心だな」
「そっか、よかった」

私は肩の力が抜けるのを感じた。無意識に緊張していたらしい。

「おばあちゃんに一言挨拶したらデートに戻りたいなって思ってんだけど、いいかな?てか、デート中に勝手にこんな付き合わせてごめんね」

彼は、眉を下げて申し訳なさそうにしている。

「うん、大丈夫。てか、そんなん気にしないよ。私も手伝えてよかったし。あと――」

私が『君のかっこいいところをまた見つけられて嬉しかったし』と言いかけたところで、おばあさんが診察室から出てきた。足首は固定され、片方杖をついている。
おばあさんが椅子に腰掛けるところまで見届けると、彼は自分の荷物を背負い直して、口を開いた。

「おばあちゃん、俺らもう行くね」
「そうかい。ここまで本当にありがとうねえ。何かお礼がしたいんだけど」
「いや、お礼とか良いよ。困ったときはお互い様ってよく言うだろ」
「そうは言ってもねえ」
「ほんといいって。ね、アイ?」
「うん。ほんと。お礼だなんて、大丈夫ですよ」

私はおばあさんの荷物をまとめて、お渡しした。そして自分の荷物を持ち直して、彼と共に病院を出た。
彼は私と手を繋いで、一歩前を歩いている。ロスした分の時間を取り戻すような足取りに、私は黙ってついていく。
彼の背中を見ていた。
多くの人が見て見ぬ振りをしていても、彼はそうしなかった。私が迷っている間にも、きっと迷いなく、助ける決断をしていた。そんな背中はなんだかいつもより大きく見えて。胸が焦がされるような熱い気持ちが押し寄せてくる。私はその衝動のままに彼の背中を軽く叩いて、

「かっこよかったよ!」

と言いながら彼の隣に並んだ。
彼は照れたようにはにかんで頭をかいた。


私も君みたいに迷わず助けの手を差し伸べられる人になりたい。君に並んで恥ずかしくない人間になりたいから。
その大きな背中を思い出しながら、憧れを胸に抱いて、私は繋いだ手を少し強く握った。

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