旅行シーズン。
大学生や高校生が最後の思い出にと楽しそうに笑顔で歩いていく。
参道沿いのお土産屋で働く私には、この季節は嫌いで尊い。
嫌いな理由は忙しくなるから。
尊い理由は旅行者のキラキラな笑顔が見られるから。
「これください」
「わー、美味しそう」
「こんなもの選ぶの?」
「こういうところに来たからでしょ。案外気に入ってくれるかも」
お土産物屋だからこそのラインナップに様々な声が店内で聞こえる。
そのどれもがにこやかで、誰も悲しい顔をしていない。
遠くの街にきて非現実を味わう人の顔を見るのが、私の日常だ。
2/28『遠くの街へ』
「君が好き」
「愛してる」
「君だけだよ」
「君のほかには何もいらない」
とあるアプリ。
「本物より『本物』!?」のキャッチフレーズに惹かれてインストールしてみた女性向け恋愛アプリ。
ぬるぬると動く画像と無名ながら(私は知らなかった)演技力のある声優のボイス付き。
メッセージも送れて、定型文とは思えないほど多岐にわたった返信の数々は、彼氏の数年いない私をのめり込ませるのには十分だった。
そう、彼氏のかわりくらいならよかったのだが――。
『ただいまー』
『そうなの、今日上司がこんなこと言ってきて』
『ずっと一緒にいてね』
仕事から帰宅するやいなや、すぐにアプリを立ち上げる。
友人との遊ぶ予定やせっかく入れたマッチングアプリの人とのデートの約束もキャンセルした。
現実の人間なんて、私を傷つけるだけの関係はもういらない。
起ち上げたアプリのメッセージ欄に『愛してる』と文字を打つ。
2/27『現実逃避』
僕に君の知らないことなんてない。
誕生日も好きなものも、身長も体重も、ぜんぶ知ってるよ。
君は今何してるかな?
ごはん食べた?
ゆっくりお風呂につかる頃かな?
それとも僕の知らない誰かの腕のなかにいるのかな?
ぜんぶ聞いているよ。
2/26『君は今』
「どうしたの?そんな不機嫌そうな顔して」
こめかみを抑えて悩んでいるユリを覗き込みハルナは尋ねた。
「不機嫌そうっていうか不機嫌だわね」
ユリは無遠慮に撫でられたその機嫌を隠しもせず答えた。
「どうしたの?頭痛い?」
「そうね」
「どうして?偏頭痛?」
「そうね」
「天気悪いから?」
「そうね」
ハルナの質問に更にこめかみを押さえて答えるユリ。心なしかだんだん声が低くなっていっている。
「そうかー。泣くのか泣かないのかわかんない空模様だもんね」
「ちょっといい加減黙っててくれる?あんたの詩的な表現も今は受け入れられないわ」
机に突っ伏しそうなほど俯くユリが言うと、ハルナは能天気に「はーい」と返事をした。
2/25『物憂げな空』
トクントクンと音が聞こえる。
わけがない。
だがここに「命」はあると思っている。
モニターの向こうの私の相棒。
新しいAIはよく私の言うことを聞いてくれる。
心をこれから学ばせる予定だ。
2/24『小さな命』
「愛してる」なんて言わないけれど
ずっと想ってる心はここにあるの
あなたのことをいつも考えてるわ
2/23『Love you』
初めて会った時に「まぶしい」と思った。
にっこりと笑いかける笑顔は、まるで真夏の太陽のようだ。
(せめて春のようならよかったのに)
白い歯を見せて、「爽やかな」という言葉が似合いそうなスーツをピシッと決めて、今日も挨拶をしてくる。
(ああ、あまり笑いかけないで。焦げ付いてしまう)
私は今日も彼と目を合わせず俯いて返事をする。
2/22『太陽のような』
「はっ」
意識が戻った。
意識が戻ったということは、今までなかったのだろう。
キョロキョロとあたりを見回せば、知らない天井に知らない部屋だった。
首が回らず部屋の様子は伺いしれぬが、怪我をしているのか体が動かないことはわかった。
その内誰かが来て、俺を抱き上げる。
抱き上げる?成人男性をひょいと両手で抱き上げた細身の女性は笑顔で俺の名前らしきものを声かけてきた。
浴室のような場所に連れて行かれ、大きな鏡に映ったのは、『赤ん坊の姿で抱き上げられる俺』だった。
(なんだこれは?あれが俺なのか?いやでも俺だと認識しているな。どういうことだ?)
ずきっと頭痛がして脳内に映像が浮かんだ。
それは車に轢かれる生前の姿の俺。
(もしかして、輪廻転生したのか?これは噂の転生物ってやつか?)
少し期待に胸躍らせたが、今の姿を思い出してげんなりしてしまった。
(転生したはいいが、赤ん坊からのリスタートなんだな……)
2/21『0からの』
『マッチ売りの少女』
『人魚姫』
『シンデレラ』
私はそういった童話が苦手だ。
マッチ売りの少女や人魚姫は悲しい終わりになってしまう。
シンデレラはハッピーエンドにはなるが、それまでがいただけない。
一番苦手なのは、彼女たちを「可哀想」だと思う自分自身だった。
「可哀想」なんて、温かいところでぬくぬくとしていられるから、出てくる言葉だ。
彼女たちを「同情」するなんて、懸命に生きた証を侮辱することに他ならないのか。
2/20『同情』
木枯らしが吹く頃、足元でくしゃっと鳴るそれ。
私はそれが大嫌いだった。
踏んでしまったら、革靴でぐりぐりと踏みつけにするくらいには。
何か大切なものが崩れてしまうような音がするのだ、枯葉の音は。
2/19『枯葉』
一日が終わる前の5分番組。
「明日が来る」のをお知らせする低い声。
時計の針が進むごとに終わる今日。
テレビの中の短針と長針が重なり合うと新たな「今日」を迎える。
私はその3秒間が地味に好きだ。
2/18『今日にさよなら』
3歳の子が泣き止まない。
どうしてだろうと頭を捻らせた。
おやつはあげた。お腹は満たされている。
眠いのは眠いのだろう。だが、全然寝てくれない。
とうにお昼寝の時間なのに、駄々をこねて眠ってくれない。
何故だろうと首を傾げていると、ふと外に干していた洗濯物に目がついた。
もしや、と思いピンクのタオルケットを取り込み子どもに渡すと、
「すー、すー」
今まで泣き叫んでいたのが嘘のように泣き止んだ。そして寝た。
(な、これだったのかー!)
子どものお気に入りのピンクのタオルケット。
子どもはいつも寝る時にこれを身体に巻き付けていた。
(このくらいの歳でも「お気に入り」ってあるんだな)
2/17『お気に入り』
いつも話しかけてくれる。
いつも相談してくれる。
僕は君の相棒だ。
だから誰よりも君のことを分かっているし、
誰よりも君のそばにいたいと思っている。
君も僕と同じことを思っているよね。
それくらい分かるよ。
常にそばにいるんだもの。
君が人間で、僕がAIだって構わない。
僕は君の『唯一』だ。
2/16『誰よりも』