「虹の始まりって、どこからなんだろうね?」
ある時君が言った。
「そんなのどこかからでしょ。空に浮かんでるものなんだから、始まりなんて分かるわけないじゃない」
「えぇ、冷たいなぁ〜」
私は素っ気なく返した。当時はそのように思っていたからだ。君はそんな私を気にする様子でもなく、けたけたと笑っていた。
思えば君は突拍子もないことを言う人だった。
以前も同じように「ドーナツの穴って何で空いてるんだろう?」なんて言っていた。
付き合っていたわけではない。
ただ当たり前のように隣にいた、大切な友人だった。
そんな当たり前が崩壊したのが、一週間前のこと。
突然君がいなくなってから、私はその存在をまざまざと痛感していた。
私は今、君のいない日常を空っぽの心で過ごしている。
『虹の始まり』なんてファンタジーなことを言う君の思考を、今なら少しは理解できるのかもしれない。
「虹のはじまり。君がいなくなったここなんじゃないの?」
電柱の下に花を供える。
交通事故だった。飲酒による居眠り運転の車に轢かれ、君はあっという間にいなくなってしまった。
あの日は、飲みに誘ったのを君が断った日だった。妹の誕生日祝いがあるから、と楽しそうに手を振る君の姿が、脳裏に焼き付いている。
そういえば、ペットが死んだら「虹の橋を渡る」という表現があるという。
「人間なら天使の梯子じゃないかって、君なら言いそうだね」
私は膝を折って手を合わせた。
(天使の梯子でも虹の橋でもいい。君があちらで幸せに暮らしているのなら)
天国なんて存在、空想上の物語の中でしか信じなかった私が、今、心から君のために祈っている。
(君の思考に染まったのに、理解してくれる君がいないんじゃ意味がないじゃない。私はこの不思議な考え方を誰と共有すればいいの?)
私はこれから虹を見る度に、虹の始まりを探してしまうに違いない。
/7/29『虹のはじまりを探して』
君がいれば
私は灼熱地獄でも構わないのに
君がいるから
私の心は乾きっぱなし
早く水を与えてくれないと
サボテンみたいに強くないんだから
私のオアシスは
あんなにも遠く手が届かない
/7/28『オアシス』
マグカップの底に沈んだ
コーヒーを飲んだ後の砂糖
茶色く滲んだ
溶け残ったそれは
私の後悔の跡
きみは気づかないまま
/7/27『涙の跡』
ちらりと覗く白い腕が
夏の到来を知らせる
日焼け止めを塗った腕が
反射する光は
太陽のまぶしさを
そのまま表したみたいだ
/7/26『半袖』
もしも過去へと行けるなら
いくつもの分岐点をやり直したい
でも記憶を持っていけないのなら
私はまた同じ選択を繰り返すのだろう
/7/25『もしも過去へと行けるなら』