カーテンを開けると、別の世界が広がるの。
こないだ読んだ本で見たような景色。
よく晴れた空。草原に渡る道。
白い囲いに赤い屋根のお家。お庭には大きな犬。
おかしいな。
少し前まで、ここは灰色の壁だったのに。
看護師さんは、良かったねと笑う。
やめて。惨めになるから、こんなことしないで。
/『優しくしないで』
『カラフル』
子どもたちのおえかきの時間、保育士はとある子どもの画用紙が気になった。
「それなにかな?」
子どもが描いていたのは、うさぎとくまと中央にかかる大きなカーブを描いた橋。
今日のテーマは『虹』で、確かに中央の橋は虹っぽいのだが、保育士の知っているカラーリングではなかった。
「にじだよ」
子どもは赤色のクレヨンで橋に色を塗っている。それは黄緑、茶色、白、ピンク、金、銀、水色の7色だった。黄緑の上に更に赤を塗ろうとしている。
「そっか、珍しい虹だね。先生の知ってる虹と違うけど、どうしてその色にしたの?」
「あのね、おかあさんがね、にじはねがいごとをかなえてくれるっていってたの。どんなねがいごとも、なないろでかなえてくれるんだって」
子どもはにこにこ言ったあと、顔を曇らせた。
「でもね、ぼくもね、おねがいしたんだけど、かなえてくれなかったの」
クレヨンを塗る手を止めて、子どもはうつむいた。
「おかあさん、しんじゃった」
保育士は去年の夏に、この子どもの母親の訃報を聞いたことを思い出した。保育士が何も言えずにいると、
「だからね、にじいろじゃないほかのいろもぬって、いろんないろでみんなのねがいをかなえてくれるようにするんだ!」
子どもが保育士を見上げて笑った。
「……そっか。たくさんねがいごとかなうといいね」
保育士は微笑み返して、子どもの頭を撫でた。
「虹」/『カラフル』
上げ損ね昨日分。
あなたがいれば そこが楽園
たとえそこが地獄でも
あなたには楽園しか似合わない
わたしのことを覚えていてくれさえすれば
それでいいの
あなたが楽園(そこ)にいるためならば
わたしは地獄の業火にさえ焼かれるわ
だからお願い
あなたの夢にわたしをいさせて
そこがわたしの楽園
/『楽園』
〜の扉が1/5くらい。逸れてしまった。
神の手から解き放たれて
ぼくは飛んでいく
行き先はわからない
風に乗って
風の向くまま
ぼくはどこへ行くのだろう
たどり着いた先に何があるのだろう
しばらく飛んでいくと
白いはこの中に足がついた
「あら、紙飛行機だわ
どこから飛んできたのかしら?」
窓辺に落ちた白い紙飛行機を女性は手に取った
/『風に乗って』
昨日分
見ているだけでよかったのに――
きみに、恋をしてしまった
下界の生活を覗いているだけでよかった
暮らしを眺めているだけでよかった
一言言葉を交わすだけでよかった
その内下界に下りるようになり
世間話をするようになり
きみが、私に恋をした
惹かれ合って、結ばれてしまった
私にとって刹那の時間
きみにとっての一生の時間
きみは、それでもいいと言った
私と共に過ごせるだけでいいと
『これはわたしのワガママだから』ときみは言ってくれた
はじめに我儘を言ったのは私だというのに
自分勝手なことだ
きみを私の理に縛りつけて
きみの魂を
何度生まれ変わっても
私に恋をするように、変えてしまった
これできみの何度でも巡る刹那は
永遠に私のものになった
永遠の刹那/『刹那』
空を見上げて、いい天気だと思う
ごはんがおいしいと思う
生きる意味なんて、それくらいでいいと思う
/『生きる意味』
『善悪』
「あなたのこと、愛してるから、殺すわね」
堪えきれない涙をこぼして、女は包丁を振り上げた。
精神的にも体力的にも参ってしまった僕は、この日々から逃げ出したかった。
だから僕の部屋に通っていた彼女に、僕を殺してくれるよう頼んだ。
彼女は僕に頼み事をされたことに喜び、その内容に落胆した。だがすぐに顔を上げ、僕の頼みならと了承してくれた。
決行は2日後。
僕のことを大好きな人に僕を殺すことを頼むなんて、僕は大罪人かもしれない。でもいいんだ。
(僕も君のこと、大嫌いだから、君にお願いしたんだ)
4月26日19時。
僕を殺すために、彼女は渡した覚えのない合鍵を使って僕の部屋に入ってきた。
/『善悪』
昨日の分
闇を駆ける一閃を捕まえて彼は言った。
「はい。これをあげるよ」
「これ、なに?」
「流れ星。持って強く願えば、きっと叶うよ」
うつむく私に差し出された彼の手には、キラキラと光り輝くお星さま。
「君はこんなところで落ち込んでるヒマはないでしょう?」
/『流れ星に願いを』*