箱庭メリィ

Open App
4/21/2023, 7:46:54 PM

 はらはらり。
「泣いているの?」
「どうだろうね? きいてごらん」
 幼い私の問いに、母は微笑み答えた。

 公園で見かけて、止めどなく流れている姿を見過ごせなかった。
 母と繋いでいた手をほどいて、公園の一番奥に佇む姿に駆け寄って尋ねた。
「ねぇ、桜の木さん。どうしてそんなに泣いているの?」
 純粋だった私は、散る花びらが泣いているように見えたのだ。
 もちろん桜は何も答えなかった。代わりにひらりと花びらが一枚、私の鼻先に落ちてきた。

 あの頃よりずいぶん小さくなった遊具に囲まれて、〈あなた〉はまだ公園の奥にいる。
 今年もまた泣き出す頃だと、公園の入口のベンチに腰かけてその姿を見に来た。
 今日は寒の戻りか風も冷たい。ストールを取り出したところで、強い風が肌を撫でた。
 煽られた髪を整えている指先に、〈あなた〉の涙がひとつ、ふたつ。
 また風に煽られて、〈あなた〉は涙がこぼれ続ける。
(桜の木さん、どうしてそんなに泣いているの?)
 声に出さぬまま問う。大人になった私は、それを悲しいとも寂しいとも、嬉しいとも訳すことが出来るようになった。
 桜の木はもちろん何も答えない。

/『雫』

4/20/2023, 8:45:32 PM

あなたが好きです。
あなたがいれば わたしは他に何もいりません。

あなたのために わたしはすべて捨てましょう。


あなたが大好きです。
あなたがわたしを見てくれるなら
わたしは富も地位も名誉もいりません。


あなたを愛しています。
あなたがわたしを好きになってくれるなら
何不自由ない暮らしを尽くしましょう。


あなたにすべてを捧げます。
わたしを好きというあなたが
この世に存在できるように。


あなたのために
すべてを捨てて
すべてを捧げました。


あなたがわたしをキライと言うのなら
わたしはこの世に存在する意味がありません。

なにもかも 捨ててしまいましょう。


あなたのために捧げてきたもの
すべて 捨ててしまいましょう。

わたしを嫌いなあなたをも
もうなにもいりません。


あなたの他には/『何もいらない』

4/19/2023, 8:09:26 PM

もしも未来のことがわかったら
あなたのことなんか 好きにならなかったかもしれない


けど あなたがいなかったら
今のわたしはいないから

未来を見れたとしても
ボロボロになることがわかっていても
あなたと友達になったでしょう


そして友達になったら
あなたの魅力にのみこまれて
やっぱり好きになるんでしょう


/『もしも未来を見れるなら』

4/18/2023, 9:08:28 PM

眠ってしまえば
人は色のない世界へ行くという


/『無色の世界』

4/17/2023, 8:19:09 PM

3月某日。
温かい気候と、ほどよく晴れた空が私を見下ろしていた。

今日は卒業式。
はらはらと淡い花弁が散っている。

散った花を打つように雨粒が落ちた。

雨粒は雨になり、地面を濡らした。

こんなに晴れているのに。

/『桜散る』

Next