はらはらり。
「泣いているの?」
「どうだろうね? きいてごらん」
幼い私の問いに、母は微笑み答えた。
公園で見かけて、止めどなく流れている姿を見過ごせなかった。
母と繋いでいた手をほどいて、公園の一番奥に佇む姿に駆け寄って尋ねた。
「ねぇ、桜の木さん。どうしてそんなに泣いているの?」
純粋だった私は、散る花びらが泣いているように見えたのだ。
もちろん桜は何も答えなかった。代わりにひらりと花びらが一枚、私の鼻先に落ちてきた。
あの頃よりずいぶん小さくなった遊具に囲まれて、〈あなた〉はまだ公園の奥にいる。
今年もまた泣き出す頃だと、公園の入口のベンチに腰かけてその姿を見に来た。
今日は寒の戻りか風も冷たい。ストールを取り出したところで、強い風が肌を撫でた。
煽られた髪を整えている指先に、〈あなた〉の涙がひとつ、ふたつ。
また風に煽られて、〈あなた〉は涙がこぼれ続ける。
(桜の木さん、どうしてそんなに泣いているの?)
声に出さぬまま問う。大人になった私は、それを悲しいとも寂しいとも、嬉しいとも訳すことが出来るようになった。
桜の木はもちろん何も答えない。
/『雫』
4/21/2023, 7:46:54 PM